臨床医師研修 & 学生地域医療実習

2004年8月30日〜9月3日

 今日から、学生実習で自治医大5年生のN君が研修に来ています。先週は石部医療センターだったようです(湖東町のH先生と大阪ドームへ視察研修に行き、応援歌も覚えてきたそうです)。ちょうど、富山○大学の医師3年目のY先生も、在宅医療に興味があるとの事で、診療所に来られています。小児科から内科に転向し、10年後には漢方医療のできる医師を目標にしておられて、N君にも私にも刺激になっています。

午前は外来(腹部エコーや内視鏡、注腸をしました)、午後は訪問診療9件。おひとり、原因不明の慢性腹痛の患者さんを往診し、入院を強く希望され、長浜病院開放型病棟を利用させていただきました。在宅医療ができるのも、後方病院がしっかりしているからです。ただ往診が終わったのが午後6時で、紹介状が間に合わず、消防署との連絡などに手間取りました。

 91歳の女性も往診しました。Y先生やN君に採血や直腸診をしてもらいました。便いじりなども問題行動も出ており、つなぎのパジャマにしたり、家族もかなり疲れています。患者さんの様態を診ることのほかに、家族のフォローも必要であり、在宅医療も楽じゃないことをわかってもらえたように思います。
 ただ・・・外来では「患者さんを」あるいは「病気を」診るのが仕事ですが、在宅では、「家族を、家庭環境を見ながら」の医療になりますし、介護や看護などの共同作業となりますので、「はまれば」面白い所なのですが。

 夜は、Y先生とN君とでちょっと飲みました。Y先生には、富山○大学の「漢方」の研修システムについて教えてもらいました。また往診した症例を参考に、「創傷治癒」について、「乾かさない、消毒しない、ガーゼを当てない」話も少しさせてもらいました。湖北の戦国史については、私もY先生もN君も興味を持っており、「もし浅井長政が信長に従っていたら・・・」なんて話をしたりしました。

 火曜日は、N君は吉槻診療所の中村先生にお願いしました。私は、「在宅医療を見たい」というY先生と一緒に動きました。午前中は、大久保出張所の診察でしたが、患者プロフィールを説明してからY先生に診察をしてもらいました。慢性疾患で、不定な愁訴というと語弊がありますが、私としては患者さんの話を聞いてあげることも治療のひとつと思っています。彼に言わせると、漢方薬がかなり使えそうですねとのことでした。2時間で14人を診てもらいました。

 昼には腹部エコーを行いました。

 午後から本所診察となりますが、私が診察をしながら、Y先生には心電図や点滴、採血などをしてもらいました。心電図を読めるということは、かなりうらやましがれました。(学生さんのうちにある程度の知識をつけておくと、あとが楽でしょう) Y先生は小児科の知識がありますので、数少ない今日の小児を診てもらいました。

 外来中に、寝たきり患者さんから「突然泡を吹いて倒れた」との連絡があり、看護師が救急車を呼ぶように指示。私の方から消防署に事情を聞いて、患者宅に連絡しましたが、心肺停止状態とのことでした。高齢男性で、心臓病などがベースにあり、10日前の往診では歩けなくなっており、いつ急変してもおかしくないことを伝えました。搬送先の病院へ連絡しました。

 そうこうしながらも外来患者をさばいて、なんとか6時頃終わりました。消防署からは、搬送患者さんの死亡確認の連絡がありました。私としては「ぽっくりいけた」と感じていますが、往診に同行している看護師にはショックだったようです。(翌日悔やみに行きました)

 午後8時から10時まで、2人ともママさんバレーの練習に付き合ってもらいました。Y先生はハンドボールをされていたようですし、N君はバンドとフットサルをしているそうで、よく動いていました。石部のような熱烈歓迎はできませんが、うちではスポーツ必修となります(^^)?。

 水曜日のメニューは、朝は腹部エコーの見学をしてもらいました。検診でHbA1c11.4%と、糖尿病が見つかった女性ですが、念のため膵臓などをチェックしました。その後は外来の見学などに入ってもらいました。彼らに点滴・採血・心電図などを(点滴は難しい人を、ただし感染症のある人はやってもらっていません)してもらいました。

 爪に栗のトゲが刺さった女性が来られましたが、異物セッシで取れないため、指の根元を麻酔して爪を
少し切除し異物セッシで取りましたが、Y先生には「小外科に感動しました」とお褒めの言葉を頂戴しました(内科医にとっては領域外でしょうか?)

 関節リウマチ(メソトレキセートを使用)、甲状腺機能低下症+副甲状腺機能低下症+糖尿病+胸部大動脈瘤(むくみの原因の検討)、癌の多発する患者さんなど、一筋縄では診断しきれない人ばかりです。(やっている内容はたいしたことしていませんが) N君には、腰痛・坐骨神経痛の人の局注を指導しながらしてもらいましたし、Y先生には膝のステロイド関注をしてもらいました。

 昼に、上部消化管内視鏡を行い、午後からは、ツベルクリン反応検査を行いました。対象児が減ってきているので、参考になったかどうかはわかりません。しかも来年からはツ反はなくなりますので、無用になるかも? 

 その後は、往診に出かけました。血圧測定や酸素飽和度、その他診察をスムーズにこなしてくれます。前立腺癌+脳梗塞の患者さんには、リュープリン注射(LH-RHアナログ)をY先生にしてもらいました。N君とY先生とは、同じ釜の飯を3日間食べたので、結構仲良くなり、お互いに楽しくやっていたようです。

 デイサービスセンターの見学をしました。デイサービスは、在宅でじっとしている高齢者に刺激を与えます。高齢者が入浴などで清潔を保ち、おしゃべりやレクレーションをすることで非常に生き生きとした顔をされています。家族にとっても、昼の間は介護から開放され、家に帰ってからまた介護に力を注いでもらえます。Y先生は感動していましたが、N君は2年生の時1週間デイサービスの実習がありましたと、涼しい顔でした。自治医大のカリキュラムは、やはり早いうちから地域医療を考えているのでしょう・・・ね。

 Y先生は水曜日にお帰りになり、木曜日からはN君だけになりましたので、朝から腹部エコー、外来見学、心電図、採血、点滴などをこなしてもらいました。不整脈の患者さんにホルター心電図もつけてもらいました。お昼には腹部エコーの人がいましたが、あらかじめN君にエコーをしておいてもらいました。エコーは石部医療センターでかなり経験も積んでいたようです。膝関節へのステロイド関注もやってもらいました。看護師から「清潔、不潔」と厳しく指導がとびました。がN君は動じる様子もなく、マイペースでやっていました。

 午後からは往診6件。腰が130度くらい曲がって四足歩行になっているお婆さんを見て、少しびっくりしていた様子です。胃瘻の患者さんとも上手にコミュニケーションをとっていました。寝たきりでHOTをしている患者さん、3年間にわたって毎週点滴をしていますが、サーフロー針で刺してもらいました。さすがに3年もたっているので、「失敗したら100円や」との息子さんの厳しい眼のもと、2回目で入れてくれました。「100円は出世払いします」とのN君、卒業後は伊吹に来てくれるようです(?)。

 午後6時から、保健師と一緒に「禁煙教室」を行いました。禁煙は伊吹町でも初の取り組みです。保健師の多方面への連絡にもかかわらず、始めは3人くらいしか応募がなかったので、少ない人数で座談会みたいになるかなと思っていましたら、意外にも15人くらい来ていただき、スモーカライザーによる一酸化炭素測定、尿中ニコチン濃度測定、アンケートによるニコチン依存度検査などに、予想外に時間がかかってしまいました。

 N君に、喫煙の害について一般的な話をしてもらいました。自分で調べて綺麗なスライドを作ってきてくれて上手に話してもらいました。感謝・感謝です。
 その後、グループワークで喫煙の量とか、禁煙しようとして失敗したことはなかったかなど話し合ってもらいましたが、グループで話し出したらきりがなくなり冗長になってしまったのが反省点でした。今回の「禁煙教室」に参加した理由もさまざまで、自分からと言う人と、妻に勧められてとか、周りの人がどうしているか見にきただけの人もいました。
 時間がなくなり、禁煙宣言書を書いてもらおうと試みましたが、グループワークなどで禁煙しようという動機づけがもう少し足りなくて、禁煙宣言のできた人と、できない人がありました。
 ただ、1、2ヵ月後にもう一度、このような禁煙教室を開いたら、来てくれることを約束してもらいなんとか終わりました。初めての取り組みでしたので、次回につなげていきたいと思います。

 金曜日は、朝は内視鏡検査で、N君に最後の抜く所をしてもらおうと思っていましたが、患者さんが残念ながら苦しそうにされていたので、できませんでした(いつもはこんなことなく、楽だったとの評価をいただいているのですが)。その他、検尿、点滴、レントゲン撮影の注意点説明、ホルター心電図の解読、局注、腹部エコーなどをしてもらいました。

 午後からは、BCG接種でしたが、N君にはスポイトでBCG液を垂らしてもらい、私が接種しました。BCG接種の仕方も非常に細かく規定されています(上腕伸側中央に打つこと、肩部には打ってはならないこと。アルコールで乾いてからBCGを垂らさないと菌が死滅することなどなど)。赤ちゃんを抱かしてみましたが、なかなかどうしして上手に抱っこします。彼は既に0歳から100歳まで見る能力を身につけているようです。


市立長浜病院


長浜赤十字病院

 夕方から、開放型病棟見学をしました。市立長浜病院の開放型病棟を訪問して、先週と今週入院させた患者さんを一緒に診ました。特に月曜日に紹介した患者さんは、家で彼にも診てもらっており、家の姿と病院の姿の両面を見られたかと思います。家では不安が強く苦痛が強かったのですが、病院の方が穏やかな表情で安心されていました。在宅と入院をうまく利用できるのでありがたいです。

 同僚のT先生と会い、しばし話をしましたが、「フィリピンの好きなN君やったっけ」と既にMLでの情報は知られていました。T先生からは、診療所のいい所悪いところ、病院のいい所悪いところ、教えていただけました。
 長浜日赤にもお邪魔し、月曜日に往診したあと、救急入院した患者さんを診てもらいました。また、在宅IVHで炎症反応が改善せず、入院した患者さんは、主治医に詳しい入院経過を伺うことができました。

 午後7時過ぎまで、フルに研修してもらい、長浜駅に送りました。疲れた顔も見せず、若いってうらやましく思いました。

普段の外来や往診に加えて、「指導」という慣れないことに気を使いましたので、1.5倍ほどは疲れましたが、彼らの純粋な医療への向上心には刺激されました。ややもすると慣れすぎてしまった自分の医療行為を、再確認することの必要性も感じます。

Y先生はもちろん、N君も、患者さんに対して、温かい誠意ある態度で、立派な臨床医になってくれることは間違いないでしょう。

お疲れ様でした。


Y先生からのレス (本人の了解を得て載せています)

 畑野先生へ  感じたことを率直に書きます

 まず、僕たち一般医科大学の医者、医学生は地域の診療所で働くということを教育されず、そこで働くということを知りませんでした。各専門の教授、講師が教えてくださり、最新の研究、治療法などを覚え、就職後は大きい関連病院に赴任し、医学、医局の発展のためにと指導されていました。大きい病院では医者と患者の距離が離れていて、患者の家庭環境などを把握するよりはもっと病気に集中して医療活動をしており、患者さんからは文句が出ないようにと考えてました。(僕だけかな?)

 診療所の畑野先生の態度を見たときは本当に驚きました。患者さんが質問することに対し、なんでも協調されて一緒に悩まれてました。たとえば水曜日におばさんが「この足のむくみなおりますかね?」と聞いたときに、僕なら「年とったらもう仕方ないですね〜」と軽くかわしていると思いました。(一応、防已黄ぎ湯などは処方します)

 やはり、先生がすごく患者さんに対して真摯だと感じましたし、患者さんも先生を信頼されているからわざわざ大病院に行かずに診療所にこられていると思いました。外来であそこまで丁寧な診察は初めて見て、今の時代にもこんな先生が存在するのか!!と驚きました。
 
 また、訪問診療は予想とまったく違ってました。行く前はピザやの配達のように、涼しげに往復できるのかなと思っていましたが、息子さんに知的障害があったり、亡くなられていたりと、診療所にこれない理由までわかってとてつもなく重いものを感じました。外来中に訪問患者さんのCPAが伝わり、あわだたしくQQ救命士、長浜Hpなどに診療情報をつたえておられ、訪問医療するということは最後まで付き合うことだなと実感しました。
 
 僕の中では大病院で漢方内科を行うよりは、診療所で内科をベースに漢方も併用するようなスタイルで働きたいと思いました。(漢方ベースで街中に開業することも考えていますが)足の冷え、だるい、元気がない、汗が出るなど、老人は和漢の教科書に出てくる愁訴がたくさんでした。先生もお気を使ってか、麦門冬湯を処方してくださり、ありがとうございました。僕は最近中だるみでしたがもう一度気合入れなおして勉強します。。

 ひとつ、診療所医療で感じたことがありました。先生方はメールを駆使され、最先端の知識を共有されておられるのですが、超音波内視鏡、マルク、CT、MRIなど診療所ではできないことがたくさんあります。今後、医療が幅広くいきわたったら、患者さんは専門医を求め、いろんな検査を希望されると思います。そうなると最初からおおきな病院に行ったりするようになるのでしょうか・・小児科では大病院思考が強かった気がしましたので・・(返事:患者さんを専門医に紹介しても、症状が安定したら帰っていらっしゃる患者さんが多いと思います。今は病診連携もうまくいっています)
 
 あと、ぜひ聞きたくて、聞けなかった質問があります。先生はすごく生きがいを感じて働いておられますが、家族、奥さんの理解はどうなんでしょうか?子供もたまには泊りがけの旅行に出たいとかは言わないんでしょうか? 僕ら夫婦は旅行が好きで、(若い修行中は無理でも)月に1、2回は土日フリーが欲しいと思っています。医者も人間ですので、自分、家族のために休みはしっかり取る必要があると思います。けど、それでは先生のような医師患者関係は保てないですね・・・難しい問題だ。 先生はどのように考えておられるのでしょうか。 無礼な質問ですみません。(返事:土日は一応休みです。電話があって家にいたら診察します。時々山かホッケー場に逃げています)

 これから内科研修、漢方研修、大学院での研究を経て、どのような医師になりたいか考えてみます。その選択肢を拡げるために、今回先生の診療所に見学に伺いました。最高の夏休みにできました。
 大変お忙しい中、御指導いただき、本当にありがとうございました。

 自治医大のN君も畑野先生のように働きたいといっていました自治医大の研修システム、指導はすばらしいと思いました。僕の感想が次回の研修受け入れに役立つかわかりませんが、素直に感じたこと、思っていることを書きました。参考にしていただけたら幸いです。

 では、またペンションに行ったときにご挨拶したします。ありがとうございました。3日間昼食を用意してくださった奥さんにもよろしくお伝えください。


N君のレポート (本人の了解を得ています)

〈実習内容の詳細〉

石部医療センター

@外来見学   
 石部医療センターは内科、小児科、耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科の外来を行っており、内科外来の方を見学させていただいた。患者さんは高齢者で高血圧、高脂血症、糖尿病など慢性疾患が多く、薬を処方するだけでなく生活面から指導されていた。アルコール性肝硬変の方が来られたが、前回の診察時に「前回よりも少し数値がいいですね」という先生の言葉に安心してしまったのか、再びお酒を始められ、先生が厳しく注意されていた。医者の言葉は患者さんの生活に大きく影響するため、話し方や言葉を選ぶことが必要であり、またこちらの意図がきちんと伝わっているか確認しなければいけないと思った。

A検査   
 心・腹部エコー、上部消化管内視鏡、大腸ファイバーを見学させていただいた。特に腹部エコーでは実際にさせていただいた。臓器をきちんと描出することができず、先生にその時点から教えていただいた。なかにはエコーや内視鏡で悪性腫瘍が見つかることもあるため、特にB型、C型肝炎の方のエコーでは検査が終わった時でも見落としが無かったか不安になると仰っていた。

B病棟   
 石部医療センタ−には24床あり、主に脳梗塞やアルツハイマーなどによりいわゆるねたきり状態の高齢者が多かった。痴呆でコミュニケーションがとれず、経口摂取もできず経腸栄養されている方が多かった。私が同じような状態になったらどうしてほしいか考えたが、おそらく自分自身はコミュニケーションがとれないなら経腸栄養までして欲しくないが、家族ならできるだけ長く生きていて欲しいと経腸栄養してもらうかもしれない。本人と家族の望む医療を提供していくべきだが、本人と意志疎通ができなくなった場合医療はどうしていくべきか、家族の意向だけで決めていいのか問題だと思った。

C訪問診療   
 石部医療センターは診療所と違って入院施設を持っているため、訪問診療へいっている患者さんの容態が悪化した時、センターに入院してもらいそのまま自分が主治医となって診ていけることできるが、少し状態が悪くなるとすぐ入院を勧めてしまいがちであると仰っていた。
 石部ケアハウス、近江学園への訪問診療にも同行した。石部ケアハウスは高齢者が自立した生活を確保できるよう工夫されており、緊急時のために常勤医もおり、生活機能、福祉機能を兼ね持った施設である。センターからは2週間に一度訪問診療をおこなっている。
 近江学園は知的障害児・者たちが豊に育っていくことを支援する施設である。施設の方に将来ぜひ小児科医になって欲しいといわれた。世間では小児科医が減ってきていると言われているが、知的障害児・者を専門に診てくれる先生はもっと少ないのだろう。

D活き活き教室   
 活き活き教室は65歳以上の方を中心として月に1回行われている。料理やゲームをし、高齢者どうし交流を深めるための催しである。今回はみなさんと一緒に体操、料理、食事をし、その後生活習慣病について少し対話形式にしてお話をした。

E講話(石部運輸倉庫にて)   
 先生が石部運輸倉庫にて産業医をされており、月に1度みなさんの前で生活習慣病や不眠症などなどお話をされているとのことで、今回は先生の代わりに私が「痛風」についてお話をした。あらかじめ話す内容について考えていたのですが、いざみなさんの前に立つと緊張してしまい、こちらから一方的に話を進めてしまったため退屈そうにされている方が何人かおられた。人の前にたって話すことがいかに難しいかを実感した。

伊吹診療所

@外来見学   
 外来見学だけでなく実際に採血、点滴、筋肉注射、局所注射、静脈注射、関節腔内注射、心電図、ホルター心電図の装着、尿検査、長谷川式痴呆スケール、直腸診、高脂血症の患者さんへの生活指導を行った。午前中の外来だけでも毎日50人を越える患者さんがいらっしゃった。時間が限られているなかでも先生は患者さんの訴えを患者さんの視点で聞いておられ、また診察も丁寧であった。患者さんは高血圧、高脂血症、糖尿病などの内科的慢性疾患が多かったが、小児、変形性膝関節症などの整形外科領域、関節リウマチなどの膠原病、また皮膚科領域の患者さんもこられ本当に診療所は一人であらゆる領域を知っておかなくてはならないと思った。その他処置として爪内異物の除去(麻酔を使って)、擦過創の洗浄を見学した。
先生はすべてのカルテの1ページ目にサマリーを書かれて患者さんを把握されていた。

A検査見学   
 上部消化管内視鏡、腹部エコー、レントゲン撮影、注腸造影を見学させていただいた。腹部エコーは実際にさせていただいた。注腸造影では、大腸癌検診にひっかかった患者さんに対して行ったところ、上行結腸に径3cm程度の隆起性病変を認めその他にも数ヶ所ポリープを疑う所見を認めた。注腸造影をしている診療所は初めてみた。これも先生は自分のところに来た患者さんはすぐに紹介状をかいて大きな病院にまかせてしまうのではなくて、自分でできるだけのことをして、これからも紹介状を書いた病院と連携してその患者さんを診ていこうとする責任感の強さを感じた。

B訪問診療   
 月曜日には10件、水曜日には3件、木曜日には4件の訪問診療に同行した。血圧測定、診察、点滴、直腸診、処置見学をした。診療所に来る患者さんに対してはその病気のことを中心になって考えていたが、訪問診療はいやでも家庭環境や家庭事情がわかり、患者さん自身のまたその家族の環境も考えていかなければいけないと思った。それにはやはり介護士や保健師、看護師の方との連携が必要だと思った。往診にいった人の中には何人か私に「畑野先生は本当にいい先生だから、あんたも頑張りいや」といわれ、本当に先生は地域医療に溶け込んでおられて、住民のみなさんの信頼も厚いのだなと思った。

C吉槻診療所、上坂並出張所   
 吉槻診療所にて外来見学をさせていただいた。伊吹と違いさらに山の方へ入っていくためか患者さんの数は伊吹診療所より少なかった。伊吹町の地域医療を向上させるためにも伊吹診療所との連携は大切だと思った。上坂並出張所では先生が来ることを待っている患者さんがおられ、その外来見学をさせていただいた。

Dツベルクリン検査、BCG接種
 ツベルクリン検査、BCG接種の見学をした。先生にBCG接種の正しいうち方を教えてもらい、簡単そうに見えて難しいのだなと思った。ツベルクリン検査では畑野先生、中村先生の他に町内の医師も一緒になって進めていた。医師以外にも看護師、保健師の方と協力していた。

E禁煙教室   
 たばこをやめたい人を集めて禁煙教室を行った。第1回目ということでどのように進めていくか先生、保健師さん達は試行錯誤していたようだった。私は「喫煙の健康への影響」についてpower pointを使ってみなさんの前で20分程度話をした。先週の石部運輸倉庫での失敗をいかして対話形式にして、医学用語はできるだけ使わずみなさんにわかりやすいスライド、言葉を使って説明をした。みなさん禁煙に興味がある方ばかりなので熱心に私の話を聞いて下さった。病気を診るだけでなく、病気の予防のためにも保健士さんと協力して健康教室などを開いて住民の生活指導をしていくのも地域医療の一つだと思った。

F市立長浜病院、長浜赤十字病院開放病棟見学   
 開放病棟とは近くの医院/診療所と高度医療を提供できる病院とがしっかり連携して患者さんを診ていく病棟である。つまり診療所で診ていた患者さんの容態が悪化したとき、開放病棟は入院を受け入れてくれて、診療所の先生も病院の先生と一緒に続けて患者さんを診ていくことができるのである。診療所にとってもそのような病棟があることでできるだけ在宅で患者さんを診ていくことができるし、患者さんにとっても入院した時なれない環境や見知らぬ先生たちがいるなか、診療所の先生もきてくださったらすごく安心なされるのではないだろうか。

V.考察・感想

 今回の実習で感じたことは、地域医療は様々な人たちとの連携によって成り立つということだ。診療所に来られた患者さんの治療をするだけではなく、自分から地域住民へ病気の予防指導を行うために健康教室を開いたり、ねたきり患者さんを在宅で診ていくための教室や相談所など行っていくことも大切だと思われる。そのためには看護師はもちろん、保健師、介護職員、行政の方々と連携をとる必要がある。また最新の医療を提供できる大きな病院と連携することによって、患者さんを在宅で診ていくこともできる。地域住民とのふれあいのためにも地域の行事や活動にも積極的に参加することも大切だと思う。「ふれあいのため…大切だ」などと義務めいたことを書いたが、これは地域医療をやることの面白い点の一つだと思う。医療従事者として、また一人の人間としてみなさんと接することができるからである。
 訪問診療に同行させていただき、訪問診療では患者さん、家族の環境や事情がわかり、医療はどこまで家庭に踏み込んでいいのだろうかと思った。介護職員、看護師の方々との協力が不可欠だが、難しい問題だと思われる。
 診療所はいろいろな分野の患者さんが受診される。専門的な知識はそれ程必要ではないかもしれないが、総合医として幅広い知識を身に付けなければならず、また患者さんの生命を救うためにも早期発見の知識と技術は不可欠だと思った。
 今回地域にどっぷりと溶け込んで働いている先生方と2週間行動を共にさせていただき、自分が生涯を通じてやっていきたい医療というものを再確認した。