臨床研修医 地域医療実習 

2004年9月4日〜

 9月6日より、ほぼ1週間、愛知県の某病院から2年目のドクターI先生が、自ら地域医療研修を希望されていらっしゃいました。

 月曜日は、午後から往診に出かけました。外来は患者さんがやってくるわけですが、訪問診療(往診)は、医師・看護師が家庭に訪問して(押しかけて)診察をします。したがって家庭の環境や家族背景を考えながらの診察になります。入院を希望される人は入院適応を考えて病院に紹介しますし、在宅を希望される人は自分の持っている技能と医療器械を使ってできるだけ希望通りにしてあげたいと思います。

 夜は、ペンションいぶきさんに泊めていただいて、1週間のスケジュールを話し合いました。自治医大の学生さんと異なり、I先生にとっては「地域医療」とはなんぞやという漠然たるものを具体的に具現するのが今回の目的でしょうか?

 往診先での処置の風景ですが、足の皮膚が化膿していましたので、洗浄し消毒し再度洗浄し、ドレッシング剤で覆います。(消毒は体の正常な細胞まで殺してしまうのでできるだけしないように、洗浄を基本とします。在宅では完全な滅菌操作は困難です)  

 火曜日は午前中、大久保出張所の診察をしてもらいました。救急外来には慣れている彼女も、慢性疾患ばかり、高齢者ばかりの診療は、ちょっと勝手が違うかもしれません。10数人を丁寧に診てもらいました。高血圧、高脂血症、腰痛・膝痛、神経痛、皮膚の痒みなど・・・。

 整形外科領域の疾患にもいろいろと挑戦してもらいました。変形性膝関節症の患者さんに対するステロイドの関節注射。感染を来たすと即入院となりますので、清潔操作に気を使います。また午後からの診察では、腹部エコーをじっくりしてもらったり、心電図を撮ってもらったり、ホルター心電図を解析してもらったり、心エコーにも取り組んでもらいました。

 火曜日の夜は、ママさんバレーの練習に参加してもらいました。地域で長続きする秘訣は、地域での生活を楽しむこと。バレーは久しぶりと言うI先生でしたが、いい汗を流してもらったことと思います(水曜日はしきりと肩をもんでおられましたけど)。

 水曜日の外来では、上部消化管内視鏡の後半にファイバーを触ってもらい、ファイバー操作の感触をつかんでもらいましたし、胸部X線撮影を覚えてもらいました。また頚椎や肋骨などの整形外科領域のX線撮影もしてもらいました。眼底カメラも撮ってもらいましたが、私より上手。

 大病院では、心電図はエコーは臨床検査技師さんの仕事ですし、レントゲン撮影は放射線技師さんの仕事ですので、医師が実際に触ることはそれほど多くはないと思います。レントゲン撮影も彼女は初めてでした。小さな診療所ならではの経験ではないでしょうか?

 水曜日の午後は、再度往診に出ましたが、北から南まで訪問エリアは広いです。ちょうど社協のケアマネさんと一緒になったので、患者さんを散歩に連れ出し、稲刈りしている家の前の風景を見てもらいました。ここ数ヶ月間、家の中だけの生活をされている患者さんだったので、外の風景はまぶしかったかもしれません。(眼がくらくらするとおっしゃっていました)

 医師としての仕事が単なる病気を治すことだけじゃないことがわかってもらえたらいいと思います。老化に伴い、治せる病気と治せないものがあり、病気と付き合っていかなければならない人がたくさんおられます。病気を持ちながらも、1日1日を「ありがたい」と思って生活できる人は幸せなんじゃないか。少しでも我々がそれにお手伝いできればいいんじゃないかと思います。逆に患者さんから人生を教えられることもしばしばです。「医者は偉い人」という価値観は、ここには必要ありません。

 往診・訪問診療の雰囲気をつかんでもらいながら、徐々に慣れていってもらえたことと思います。I先生にとっては、地域医療が目標ではないかもしれないけれど、地域医療の実際を感じ取ってもらえて、今後の診療に役立ててもらえれば私たちにとってはやりがいのあることです。

 「いぶきやさぶろう」の顔出し看板に顔を出してくれるI先生は、自分のペースで、自分の力量に合わせて誠実に診療のできる先生とお見受けしました。

 夜は、研修医・学生実習受け入れて初めて、ホッケーの練習に参加してくれました。小学生の練習なのですが、女医さんということで、父兄の方が快くマンツーマンで指導してくださいました。ホッケーなんて、これまで触ったこともないスポーツだったようですし、今後もおそらく触ることがないでしょう。ホッケーを通して、子供たち、そして父兄と接してもらうことができたと思います。

 木曜日は、内視鏡を触ってもらったり、ヒアルロン酸の膝関節注射をしてもらったり、胸部X線、足関節のX線撮影、心電図を撮って読んでもらったり、肺機能検査を見てもらったり、腹部エコー、甲状腺エコーをしてもらったり・・・とできるだけ、大病院研修でできないことをしてもらったつもりです。いかがなもんでしょうか?>I先生

 午後からは、長浜病院の脳外科 K先生の「くも膜下出血」の講演を聴講に行きました。

 今回の研修をまた日頃の診察にフィードバックしたいので、I先生、また感想を聞かせてください。お疲れ様でした。

I先生からのレス  (承諾を得ています)

お忙しい中、研修ありがとうございました。案外疲れていたらしく、こんなんじゃいかんと思いつつも土曜日は動けませんでした。HPみました。たった4日間でマイペースであることを見破られてしまうとは、、、。

 地域医療の研修は、今までにポリクリやローテートでも往診や訪問看護やデイサービスに参加したことがあり、少しはイメージができていましたが、診療所の”何でもあり”の診療をみて驚きました。レントゲン撮影をまさか自分でするなんて!!でも、考えてみたら診療所で撮影できるのは医師しかいないんですよね。また、DMやHTで通院している患者さんが、先生、今日は足が診て欲しくて、といって来られ、整形疾患も診てしまうという広さにも。
 
 私は大学卒業後に大きな病院で研修をしており、レントゲンやCTやエコーなどはオーダーすれば検査技師さんにきれいな画像とコメントまで付いて返ってきます。救急外来でエコーや心電図を使うことはあっても使いこなすまでは行っていません。
 診療所で一人で診療をするということは本当に幅広い知識と経験、何でも診るという覚悟がなければやっていけないということを実感しました。また、技術や知識以上に大切なことは、患者さんの信頼を得ることだと思いました。

 本当に、患者さんやその家族の方が先生を信頼しており、患者と医師の関係以上のものを感じました。この関係はすぐにできるものではなく、先生が伊吹町で12年間やってきてできたものだと思いました。

 私は、今は産婦人科に進むことを考えており、地域医療とはあまり縁の無い科ですが、先生の患者さんに対する姿勢など、この研修で体感できたことをこれから役に立てればよいなと思います。まだ半年間のローテート期間がありますが、進路を含め自分がどんな医師になりたいのかをもう一度考え直してみたいと思っています。

 毎日お忙しい中、研修さらに夜のバレーやホッケーにまで連れて行っていただきありがとうございました。また、毎日昼食を準備してくださったり、シューズを貸してくださったりといろいろと面倒を見てくださった奥さん、ありがとうございました。