地域包括ケアセンターいぶきの目指すもの

2年目にあたり

2007.5.24   センター長 畑野秀樹

 私たち地域包括ケアセンターいぶきのスタッフも、施設を立ち上げて1年がたちました。今日は1周年記念として学術発表会が盛大にできたことをとてもうれしく思います。

 2年目を迎え、センター長として、いぶきが目指していきたいと思うことを少し述べさせてもらいます。そして若干の軌道修正をしたいと思います。

 ケアセンターいぶきの目指すもの、それはグアムへの職員旅行!・・・としたいところです。是非、軌道に乗って4年後の5周年記念の職員旅行には、グアムにみんなで行きたいなぁ。ビーチでゆっくりと過ごしたいなぁ。と思います。

 夢に終わらず、現実のものにしていきましょう。

 さて、ケアセンターいぶきができる前の私たちがやってきたことが、保健・医療・福祉の連携による「まちづくり」です。その成果として、上記のグラフのように、伊吹町の一人あたり老人医療費は年々下がり、平成14年度には滋賀県で最も低くなりました。保健師や健康推進員との連携により病気を未然に防ぐこと、看護師や社会福祉協議会との連携により、病院に入院しなくても自宅で安心して過ごせるように努力してきたからだと思います。

 あとこの地域に足りなかったのが、入所できる施設の整備でした。実績が買われて、ようやくできあがったのが、この『地域包括ケアセンターいぶき』です。

 ケアセンターいぶきのめざすもの。それは楽しい職場です。職員が楽しくないと、利用する人たちも楽しくないと思います。この1年はがむしゃらに余裕もなく取り組んできました。

 バドミントンやビーチボールなどを楽しむサークル作りをそろそろ取りかかってもいいかと思います。また、アフター5には飲み会なんかもいいですね。

 でも、現状はまだまだ忙しすぎます。看護師も介護士もまだ足りない状況です。

 事務長を中心に看護・介護スタッフを集める努力を継続します。

 これからの日本の社会は、もう右肩上がりではなくなりました。国民医療費も30兆円に達し、国が破綻しそうになっています。厚生労働省がいろいろと策を練って、医療費削減に努めています。

 ここ数年以内に、介護型療養病床はなくなります。38万床ある療養型のベッドが15万床に削減される予定です。また急性期病棟も、入院期間が短縮され、現在の40日間が10日間くらいにまでに減らされるでしょう。

 来年から、厚生労働省は、医療適正化計画を始めます。ひとつの柱は生活習慣病の予防による健康推進計画です。予防を重視し、健康診断の受診率によって市町村におりる予算を増減する予定です。

 もうひとつは先ほども言った在院日数の短縮です。入院を減らし、医療提供体制を見直すことになっています。

これからの日本は、

1)病気を作らないという予防医療と

2)入院できない、あるいは入院してもすぐに退院を迫られる状況となり、在宅医療を推進する

方向へ進みます。療養型病床の改革(削減)の次は老健の改革に移っていくと予想されます。その時までに私たちはどうしておくとよいのでしょうか?

 いぶきは、その名前の通り「地域包括ケア」の実践基地として作られました。保健も医療も福祉も包括する。赤ちゃんから小児から成人から高齢者まで包括する。内科も外科も整形外科も皮膚科も心療内科も広く診ることができるようにする。家庭をそして地域を診ることができるようにする。

 実際のケアセンターいぶきの今の役割は、「在宅支援」と「リハビリテーション」です。老健から在宅に帰る人は、全体の6〜7割と、他老健の2倍以上あり、自宅に帰っても訪問診療、訪問看護、訪問リハビリという訪問系サービスと、デイケア(通所リハビリ)という通所系サービスで、カバーします。もちろんショートステイの受け入れもできています。

 今後の理念は、「自立支援」を核としていきたいと思いますし、老健においては地域に特化した「地域循環型老健」を目指します。

 自立支援とは何か?ですが、診療所においては、例えば糖尿病を持っていても、認知症を持っていても「その人が、その人らしく生きることができる」ことを支援していきたいと思います。

 訪問医療や訪問看護、訪問リハにおいても、自宅にて住民が安心して過ごせることを支援します。

そして、老健においても、とりあえず3ヶ月間過ごしていただくのではなく、安心して地域に帰ることができ、自立した生活をできるように支援するようにしたいと思います。

 1年目のいぶき老健は、施設の中で安全に過ごしてもらうことを重視してきたことはないでしょうか? 転倒しないように、脱走しないように、誤嚥しないように・・・

 今後は、より家庭に近い状態で過ごせるように支援していきませんか。

 例えばその方法として、既に1月から取り組んだユニットケアという方法があります。より家庭的な雰囲気で個別のケアが既に行われてきて、とてもよい成果が出てきました。

 また、例えば、週に1回はバーを開いてお酒を楽しむことができるとか、タバコを美味しく吸える機会を作るとか・・・

 これまでは、守りの老健ではなかったでしょうか? 事故を防止するために利用者から生きていく手技を取り上げていませんでしたか? これからは事故が起こっても大丈夫な『利用者と家族との強固な信頼関係』を構築していく中で、その人らしく生きることを支援していきませんか?

 例えば、料理を作るために包丁を使って調理したり、近くの畑に出て作物を作ったり・・・

 いぶきのスタッフの関係は、医師を中心としたピラミッドではなく、全てのスタッフが平等なフラットな関係です。この関係はこれからも継続していくつもりです。

 その中でも特に老健では、主役は介護士と看護師であり、PTやOT、栄養士、相談員がサポートし、その下に医師が位置したいと思います。

 スタッフは自分たちが相談した結果、よいと思う方法をトライしてください。もし悪い結果になってしまえば、その時は医師が責任を持ちます。

 さて、いぶきの老健は入所の最長を3ヶ月間を決めています。他の施設が6ヶ月から1年であることを考えるとき、ご家族が、長く見てもらえるからという理由で他施設に行かれることもあります。

 いぶきでは、この3ヶ月という期限はこれからも継続していきます。3ヶ月間の間に、その人が自宅に帰ることができるよう、自立できるよう支援していきましょう。入所時より自宅復帰に向けたアセスメントを立てましょう。

 ただ退所から再入所までの期間3ヶ月については、「もう数ヶ月リハビリしたら自立できるのに」という人について、退所判定会を開いて、再入所までの期間を短縮してもいいのではないかと考えています。その理由は「自立支援」の立場です。

 老健の勉強会に行ったとき、病院とは違う老健のケアに驚きました。目から鱗が落ちる気分でした。病院では、とにかく患者を抑制します。塩分制限、水分制限、運動制限など(ベッドの4点柵、安全ベルトは抑制です)。

 高齢者に十分な水分を栄養をとってもらうこと。そして十分に運動してもらうこと。入所中に足がむくんでくる人がいますが、よく観察すると、ずっと車椅子に座ってる人ではないですか? リハビリして歩く練習をしてみるとむくみが取れてきませんか?

 また健常者と同じ考えで下剤を定期的に使わないようにしましょう。3日間でなくても本人が苦痛でないなら便秘ではないのです。家に帰れば、頻回のおむつへの大便は家族が疲れてしまって、自立への阻害因子となります。 先進的な施設ではおむつをする人を30%以下にしようと取り組んでいます。トイレに座れるように取り組んでみませんか? 自宅でポータブルトイレが利用できれば、家族は家で看てもいいと思うのではないでしょうか。

 そして、日本一の施設に近づけるよう努力しましょう。

 地域医療振興協会の規定では、その年度の収益があれば、黒字の2割を施設職員で分け合うことができるようになっています。

 1年目の平成18年度は赤字でしたが、1年目としては予想以上の好成績でした。老健入所が軌道に乗った平成19年度以降は、黒字が見込まれます。

 もしも5000万の黒字が出たとすれば、一人20万円の追加ボーナスを3月に出すことができます。(※この数字は夢の話です)

 最後に、ケアセンターいぶきが目指すもの。

 それは、自立支援であり、一般の老健施設を越えたスーパー老健。

 複合施設ゆえのメリットを活かした、各サービスの有機的な連携。また隣接した社会福祉協議会の持つ、デイサービス、ホームヘルプ、その他の一般福祉サービスと力を合わせたいと思います。

 なにより楽しい職場にして、元気な地域作りをしていきましょう!