「理想のかかりつけ医師像」ヒアリング  2007年10月12日

地域包括ケアセンターいぶき

 
国民健康保険中央会 「地域住民が期待するかかりつけ医師像に関する調査」についての,詳細な意見を聞きたいとのことで,諏訪中央病院名誉院長 鎌田實先生, 関西大学教授 一圓 光彌先生が,三菱総研の担当の方とともご訪問に見えました。これからの日本の医療を支える医師の育成について、また医療保険制度のあり方について、聞かれたのですが、むしろ逆に教えられた気がします。
初期研修医の山本先生も交え、明日の日本を作っていく著名な先生との2時間はとても密度の高いものでした。



質問事項(国保中央会→畑野):

1.かかりつけ医師像

(1)医療技術
 内科や外科などに限らず,内科も小児科も,整形外科,小外科,心療内科,耳鼻科,眼科などを総合的に診ること.自分の能力を知っていて,自分にできることは自分で行い,できないことは専門の医師に紹介できること.

(2)医療設備
 何もいらないと思います.最低限聴診器があれば.しかし往診では,聴診器の他,血圧計,体温計,パルスオキシメーターは常時使っています.

(3)病院・専門外来との連携
 その患者さんのかかりつけの病院を知っていること.また疾患により『どの医師』に紹介すればいいか知っていること.ここの医療圏内であれば,病診連携室を使って画像診断の予約ができますし,入院・外来の予約もできます.開放型システムを利用することができます.

(4)勤務時間(急患対応)
 診療所にいるときは,時間外でも診ます.@事務で対応→A外来看護師で対応→B医師 の順に情報が来ます.往診に行っていていないときは看護師が適切な指示を出すことができればいいのではないかと思います.夜間は老健看護師より医師に連絡が入ります.休日の対応については,診療所では限界があり,病院の救急にお願いしているのが現状です.

(5)往診・在宅医療
 私たちがもっとも力を入れている部分かと思います.「地域全体が病院と考えれば,ベッドは自宅であり,ナースコールは電話です.医師の回診が訪問診療となっています」 地域の70〜80人に対して訪問しています.在宅療養支援診療所と届け出しており,24時間365日で対応します.医師は2名で主治医制にしていますが,どうしても都合のつかないときは別の医師が対応します.携帯電話を教えています.

(6)診療範囲(地域)
 畑野の診療範囲は診療所から半径10km以内ですが,中村の診療範囲は20km以内です.市内全域+一部長浜市内に行っています.現実的には半径5km以内が適当ではないでしょうか.

(7)人柄
 横柄な態度を取らず,いつでも電話したり相談してくださいという立場です.患者さんはもとより家族の不安をできるだけ除いてあげることで,在宅での医療ができるのではないかと思います.



2.目指すべきかかりつけ医師を育成するために

(1)大学における教育
 できるだけ早くに地域医療にふれていただくことがいいかと思います.若ければ若いほど柔軟性があります.大学1年生の時に早期体験学習をしてもらうことで,医師のイメージがわくのではないでしょうか? 例えば自治医大では1年生から夏に地元の医療機関に2日間実習します.私自身,大学の時の毎年の2日間はとても記憶に鮮明に残っています.

(2)卒後研修
 現状で,若いジュニアの先生を1週間〜1ヶ月単位で受け入れていますが,若い先生ほど柔軟のようです. 初期研修の地域研修はとても意味があると思います.レポートは畑野のホームページに載せています『地域研修のコーナー』.

(3)生涯学習
 医師会や学会の研修に行かせていただいています.

3.目指すべきかかりつけ医師のための医療制度
(1)医療提供体制

(2)診療報酬
 病院が軒並み赤字に陥っており,医師離れも進み,診療所から病院に安心して患者さんを送ることに多少懸念があります.病院は専門化しているため,例えば高齢者の肺炎の治療目的で入院してもらった人が,肺炎は治ったけれど偽膜性腸炎になって帰ってきたこともあります.病院の報酬がもう少し高くなって,病院が元気になるような診療報酬が必要かと思いました.

 高齢者医療については,以前は月に何度往診に行っても無料とか1000円とかいう時代がありましたが,今は1割〜3割となり,在宅療養支援診療所となっているので,月に6000円とか1万5千円とかになっていて,なかなか行けない現状があります. 往診や訪問診療については,外来にかかることができない人ばかりですので,月5000円程度の定額であれば,計画的な訪問診療ができるかと思います.

(3)その他
 要介護の人が,介護保険サービスを受けて,よくなって要支援になったとたんに,ベッドを借りられなくなる制度はきついと思います.医師の意見書には,要介護1以上出さないとこの人は困ってしまうという危機感を持ちながらの記入になります.



4.行政への要望

小泉元総理大臣の行ってこられた行政改革は、よい面と悪い面があったと思います。
今は、地域に保健師を帰してほしい、これだけです。



5.国民健康保険中央会の提言について
高齢社会における医療報酬体系のあり方に関する研究会 提言 

1.後期高齢者の医療におけるかかりつけ医体制の強化
 @後期高齢者は,原則として診療所の中からかかりつけ医を選ぶ
 Aかかりつけ医は以下のような役割を担う
   以下略
2.かかりつけ医に係わる報酬体系の新設
 @登録された後期高齢者の人数に応じた定額払い報酬を導入する
 A後期高齢者におけるかかりつけ医の報酬は,出来高払いと上記定額払いを併用する
3.効果
 @医療機関に対するフリーアクセスをある程度制限する
 A後期高齢者におけるQOLの向上が推進される
 B診察から入退院,リハビリ,介護サービスとの連携まで含めて継続的な医療が推進される.

 かかりつけ医にとってはありがたい制度ですが,住民を支えるかかりつけ医の存在のない地域では難しいかと思いました.特に在宅医療をしている地域が限られていて,在宅を希望しても帰ることのできない人がたくさんおられるようです.私たちの地域でも,従来から往診している地域の人は安心して要介護5でも自宅に帰って行かれますが,他地域の方は最初から家には帰れないとおっしゃっているのが現状です.在宅医療の充実には5年以上の時間と,それを支える医療スタッフ・介護スタッフの存在が必要かと思います.

 休日夜間については,かかりつけ医を通さなくても,病院の救急に受診できればいいかと思います.しかし基本的は休日夜間についてもかかりつけ医と常に連絡が取れる状況は必要です.「今,○○へ勉強にいっているから,ごえめんなさい.病院の救急にかかってもらえんかな」と言えるような気楽な医師患者関係があればと思います.



6.この地域をどのように見ているか〜8.具体的な活動

 この地域の主治医でありたい.この地域の専門医でありたいと思います.認定医などは必要ないと思っています.しかし若い先生にとっては,「認定医」がないと不安だろうなと思います.私は,この地域の住民6000人と全て知り合いであることを誇りに思っています.地元の太鼓祭りに家族で参加したり,運動会に参加しています.
 この地域にいる以上は,この地域の住民を元気にしたいと思っています.地域の観光資源となる人(ペンションや喫茶店,山小屋)の人と話し合う中で,ホームページの中で宣伝したり,施設に入っている人を連れて行ったりして,地域と施設とのつながりを大事にしたいと思います.
 また地域の人に愛される様な施設づくりとして,各地の老人会やサロンなどの集まりに呼んでいただいて,健康教室を開かせてもらうなど草の根の活動を大切にしたいと思います.

 家族とのつながりが薄れている地域が多い中,まだこの地域は家族の絆が残っている方だと思います.100歳の高齢者が自宅で療養し亡くなっていく中で,孫やひ孫がお世話をし,亡くなっていくときに親戚など20人くらいが集まって見まもりながらお別れをする.そのような高齢者の「病・老・死」を,孫やひ孫に見せることで,リセットできない「生」を大切にする若い世代が育つと信じています.このことが30年後,60年後のこの地域を,思いやりのある元気な地域にできるのではないかと考えています.