家に帰そう プログラム

2008.3.某日 ケアセンターいぶき老健部門

(ご家族の了解の元、写真の掲載をしています)
 地域包括ケアセンターの基本理念は、「地域支援とリハビリ」ですし、このためにケアセンターいぶき老健部門も、「家で過ごす」ことができるよう利用者さんを評価(アセスメント)し、計画を立て、プログラムを実行しています。介護士や看護師が中心となり家に帰っても暮らしていけるような生活リハビリを行い、それを理学療法士や作業療法士がプロの技術で支援しますし、栄養士が食事についてアセスメントします。

その成果により、約6割の入所者が、自宅復帰されています。車いすで入所してきた方が、自分の足で歩いて帰って行かれるのを見ることは、スタッフにとっても励みになります。そんな中、リハビリを目的に入所したにもかかわらず、体の予備能がないために衰弱していく人も一部にあります。


Kさん、93歳女性は、認知症、うっ血性心不全、腰痛症などで病院に入院されていました。入院中は寝たきりの状態でしたが、ご家族は「グループホーム」という介護の必要な方々を預かる仕事をされているために、現状で寝たきりの母親を看る余力がないとのことでした。もう少しリハビリをして自分の力でトイレに行ったり食事ができるようにならないかという希望があり、いぶきの老健入所を希望されました。

 入所判定会でも、「リハビリをして家に帰す」という当方の方針に合致しており問題はありませんでしたし、実際入所されて、車いすの生活ではありますが、レクレーションをしたり筋力アップのリハビリをして機嫌良く過ごされれていました。

 ただ、1ヶ月すると、心不全の薬を使い食事も減塩食にしていたにもかかわらず、全身のむくみがひどくなってきました。利尿剤という薬を増やしても反応が悪く、胸水が貯まってきました。ご家族にその旨説明し、「胸水を抜いてもらうには、病院に入院して、酸素吸入、安静、心不全の薬の点滴、利尿剤の増量が必要だろうと思います」と申しました。ご家族は、「今ここで入所している時の表情がよく、できればここでみて欲しいんです。病院からは認知症もあり、退院を迫られていた経緯があって、いぶきが唯一の受け皿になってもらったんです。いぶきでみていただけませんか」というご返事でした。

 進行する心不全にブレーキがかけられないため、「リハビリして生活能力を上げる」という方針から、「安楽に最期を暮らしてもらう」という方針に変更しました。酸素を吸いながらですが、みんなと食事をし、レクレーションも気分に合わせて実施し、リハビリもベッド上ですることにしました。

 ご本人が、「家に帰りたい」とおっしゃるため、ご家族に話をしましたが、やはり自宅での生活は「他人を介護する」という仕事上、難しいようで、せめて死ぬまでに一度は家に帰そうという計画がスタッフの中から出てきました。送迎する車の中で亡くなったとしても構わないとの家族の了解を得て、医師、看護師、介護士が同乗し、週末車で自宅へ外出しました。
 外出し、久しぶりに返ってきた我が家は心地よいらしく、般若心経を読まれ、亡き夫の写真に手を合わせ、まだ体調がよかった頃、一緒に暮らしていた「グループホーム」入所の方々との再会を笑顔で果たしておられました。ひ孫さんとの再会ではとてもよい顔になっていらっしゃったようです。

 夕方、いぶき老健に帰ってこられましたが、しばらくはよみがえったかのように気分よく過ごしておられました。3ヶ月の退所後には、自宅で生活を支援すべく地元のドクターと連携を取って往診体制を取ろうと計画していましたが、残念ながら退所前に、老健で息を引き取られました。亡くなる前日には遠くに住む家族との面会もできており、本当に安らかにお亡くなりになっていました。


 『最期を家の畳の上で迎えたい』と、全国調査の結果を見ても約7割の人が希望されているようです。私たちもできるだけ家での生活を支援したいと思いますが、諸事情のためそれがかなわない場合もあります。病院よりは、むしろ「家」に近い老健施設の方をご家族が希望されるのであれば、それはそれで支援してみたいというのが、老健スタッフの気持ちです。(ん? センター長の気持ちです)