在宅緩和ケア

(ご家族の了解の元、文章・写真の掲載をしています)
 電子カルテの記載を見ながら、振り返ってみました。6年間つきあってきただけに、家族のような関係になっていたように思います。最後は喉頭癌が命取りになりました。
「もう大きな病気で3回くらい死んでいてもおかしくない体です。そんなに長くはないので、やりたいことをやりましょう」と、冗談にも本気にも取れるように伝えていました。
患者さんも「もう十分に生きた」とおっしゃっていました。

 しんどくて点滴を毎日していた10月頃、お酒の差し入れをしたところ、その後長い間、点滴は不要になりました。ご家族との晩酌が
「命の水」となっていたようです。

 孫娘さんが、「先生、
今が一番家族がまとまっているんです」とおっしゃったときには、とてもうれしく思いました。
今はもう亡き命ですが、家族の心に、私の心に生きていらっしゃいます。

○○さん、80歳台男性

H14.4 食道癌手術 7月に退院するが、夏ばてのため点滴し回復

H15.10 労作時のふらつき、転倒

H15.12 意識消失し救急へ→狭心症と診断され、ステント留置される

H17.9 アルコール依存となる。喉頭癌が見つかり放射線治療を受ける。

H18.5 喉もだいぶんまし(喉頭癌、放射線照射後)、アルコールはたくさん飲んでいるらしい(ビール5本、日本酒1合)

H18.5 肺炎 WBC 24400, CRP 13.5 点滴→外来で改善

H18.9 ゲートボールで忙しい。耳鼻科の定期検査でファイバーで腫瘍再発が見つかった。その後、耳鼻科よりご返事。悪性細胞ないため手術しないで退院

H18.12 意識消失発作があり緊急入院となった。脳梗塞をフォーカスとしたけいれん。狭心症があり心カテの予定となった。しかし39度の発熱があるため延期。

H19.1 往診開始

H19.2 デイケア開始。咳が出る、痰が絡む

H19.3 循環器科でレントゲン異常を指摘され、呼吸器科受診を勧められた。

H19.5 ゲートボールへ行った。泌尿器科へ(結石)

H19.6 意識レベルの低下。ボーとしている。右下肺野に荒い湿性ラ音。放射線科から電話があり、腫瘍マーカーが高いのでPETを勧められた。
 「もうこれ以上は長生きしたくない」、「もうよい」と

H19.7 咳がよく出る。胸部CTはキャンセルした

H19.8 咳が出る。喉が痛い。

H19.9 呼吸困難。内視鏡で喉頭癌の再発、気道閉塞を見つけた。ご本人は、「もう手術はしたくない」とおっしゃるが、「気管切開しないと窒息死しますよ」と説得し、耳鼻科へ紹介

H19.10 気管切開し退院。気管カニューレ留置。食事を食べに外出もいいと話した。

 一番辛いこと、「声が出せないからつらい、ストレスになる」と ネブライザーをして痰を出す。黄色痰。点滴を施行

10.17 余呉湖に行ってきた。天気が良かった。刺身が食べられる  本人の悔いのない生活を支援
禁酒していたので、お酒を持っていって「飲んでください」と渡した。うれしそう。
       

10.19 お酒をおちょこに少しずつ飲んでいる
       大好きな日本酒を持って研修医さんと

10.21 緊急往診、息ができなくなって苦しんでいると。喀痰喀出困難

10.24 近江八幡の太郎坊にいってきた。車が長かったのでえらかったみたいだが元気。喉頭部の痛みはボルタレンが効いている。

11.5 オプソを開始。オプソを1回飲んだら痛みがなかった。

11.16 水鳥ステーション、ういろうを買ってきた。長浜でうどんを食べた。
       大好きなういろうをほおばる

11.19 オプソは2〜3日に1回使っている。今のうちにどんどん外出してもらう。

12.1 昨日は三島池に行って歩いてきた。三島荘でうどんを食べた。調子よかった。痰が出にくい。お酒はおちょこ3〜4杯。

12.6 カニューラより出血。ボルタレンが効きにくい。オキシコンチンを開始。

H20.1.4 元旦に39.5度の発熱あり。うとうと。お酒は3杯飲んでいるが、痰が出せない。

1.7 ペインコントロールはオキシコンチン 20mgで

1.9 水鳥ステーションへ行った。醒ヶ井養鱒場へ行った。お酒は白鶴。

1.16 調子悪くて寝てばかり。首もと〜後頭部の痛み。

1.23 調子は悪い。夜寝ないで、奥さんに怒ったり、ものを投げたり、たばこを吸う真似をしたりしていた。

1.25 調子は悪い。お酒も飲めない。

1.28 昨夕は3杯ほど飲んでよく眠れた。持って行ったお酒をおちょこに1杯。美味しそうに飲む。
       みんなで乾杯

2.5 傾眠傾向。食欲ない。バナナくらいしか食べられない。

2.9 桧原先生からいただいたダッサイを渡した。液体なら口からはいる。

2.13 昨日から血痰。おかしな行動をしている。バナナとラコール、お酒は飲んでいる。

2.20 お酒は飲んでいる。点滴は月・水・金

2.27 もうあまりもたないことを家族に説明した。一緒に生活できる時間を大切にしてもらうことで同意を得た。
       ひ孫さんとのふれ合い

3.3 家族に囲まれて死亡。


治らない病気であるのなら、できる限り、家で過ごしていただきたいと思いますし、この経験は自信になりました。
この患者さんの命は、確実に次の世代に引き継がれたと思います。ん? 酒飲みの遺伝子? 
心よりご冥福をお祈りいたします。