佐藤幸光先生に想う

「人のために生きる」を知る

2008.5.10



医療安全の講義を聴くスタッフ


佐藤先生の講義の様子


ペンションいぶきにて


地域医療振興協会の医療安全推進室長の佐藤幸光先生が、いぶきにお越しになりました。福岡県と長崎県の社団の関連施設開設式典に、中村先生と佐藤先生が出会って意気投合し、今回のいぶき訪問に結びつきました。

佐藤先生のご専門が、医療安全工学で、急に予定の入った飛び入りの研修会でしたが、興味深く聴講させていただきました。
・・・関連ホームページ ・4

夕食のペンションいぶきさんにて、佐藤先生のお話しをお聞きしたのですが、その際に師匠とする横山紘一氏の『十牛図入門 「新しい自分」への道』という本を、記念にくださいました。医療安全と人生の目的哲学が、どう結びつくのかはよくわかりませんでしたが(「自己究明」と「事故究明」だったりして?)、その本の内容はとてもよく私の中に入っていきました。
十牛図入門 「新しい自分」への道
 人生の3大目的は、「自己究明」と「生死解決」と「他者救済」とされています。「十牛図」とは、逃げ出した牛を探し求める牧人が、「牛」すなわち「真の自己」を究明する禅の修行によって高まりゆく心境を、比喩的に十段階で示したものです。

「人のために生きる」ことで、自分が軽くなる不思議 と、本には書かれていますが、私自身の経験からもまさにそのことを実感します。

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の中で、

東に病気の子どもあれば
行って看病してやり
西に疲れた母あれば
行ってその稲の束を負い
南に死にそうな人あれば
行って怖がらなくてもいいと言い
北にけんかや訴訟があれば
つまらないから止めろと言い


と書いてありますが、自分もそのように生きていきたいと思っています。

自分のためだけの行為は、自分に跳ね返ってきて、自分をますます重くしていく。「この与えられた生のエネルギーを、他者のために使い尽くして行くぞ」という気持ちで一日一日を過ごしていけば、他者も自分も幸せになっていることに気がつきます。


 私自身に振り返ってみて、20歳の目標は、「40歳になったときに、住民に信頼してもらえる医師になっていること」でした。40歳が近づいてきて、私はとても不安になりました。少しは患者さんの信頼を得てきた40歳を間近にし、次の人生の目標をどうしたらいいのか? 人間的には未熟で弱くて、惑ってばかりの40歳。

 ちょうどそんな頃、山野草の世界にはまりました。伊吹山の中を週末になると早朝から歩き回り、山の空気を吸い、一生懸命に咲いている花々を見る。歩いていると、トランス状態になるのでしょうか、大自然に吸い込まれ、溶けてしまうような気になります。自分が死んでいても生きていてもどちらでもいい感じがします。そしてSMAPの「世界でたた一つだけの花」の音楽が携帯ラジオから流れてきて・・・般若心経の「色即是空、空即是色」をなんとなく理解できる気がしました。

 山にいたらおにぎりとお茶があれば、全く何も必要としません。お金も必要ないし、きれいな服も必要ない、山野草の写真も「色」を出して撮る必要なく、ただあるがままに撮らせていただければいい。「無」になったとき、とても力強い感じが湧くようになってきました。

 そして里に帰り、再び日々の仕事で地域の人と関われば、私がいただいた『山の気』のエネルギーを、患者さんにお渡しすることができるような気がします。人のために生きることが、とても自然に感じられるようになりました。

 42歳を過ぎたとき、ようやく自分の道がわかってきました。今、自分ができることは何であろうか? 目の前の患者さんにおいては、病気だけを見ることではない、その人として、「活き活きと」生きることを支援することが自分の道です。地域においては、都会の常識や最先端医療を提供することでなく、この伊吹という地域が持っているよいところを誇りに思う人を増やし、周囲の地域(湖北であったり、滋賀県であったり)を、思いやりのある心で住める町にできればいいなぁ、と思うようになりました。また全国からやってくる若い医師や学生さんにおいて、こんな地域医療を体験してもらって、「契約医療」「エビデンス医療」でなく、「信頼医療」「温かい医療」を頭の隅に置いて仕事をしていただけばいいなぁと思います。

できてもいい、できなくてもいい。
信じてもらっても、信じてもらわなくてもいい。
評価されてもいい、評価されなくてもいい。
自分が失うものは何もないと悟ったとき(別に命が惜しいわけでもなく)、とても気楽になりました。

今回、このような巡り合わせで、佐藤幸光先生とお会いすることができ、自分自身を見つめ直し、文章にして書くことができました。自分はまだ未熟だろうと思います。でもこのような出会いを通じて、少し成長した自分を感じることができました。ありがたいことです。
hatabo