地域住民の生活に寄り添う医療・ケアを目指して
〜地域包括ケアでまちづくりの試み〜

2009.7 バージョン

地域包括ケアセンターいぶき 畑野秀樹

(写真の掲載にあたっては了解をいただいています)


 人口4万2千人の米原市の中で、伊吹地域は6千人です。隣町の病院までは車で30分以内で行けるのですが、公共交通機関の便は極めて悪く、医療機関を選ぶことが難しい農山村です。過疎化が進む地域も含み、少子高齢化の波が来ています。このような地域の中で、地域の住民が安心して生活ができ、若い世代も「この地域に住んでもいいな」と思ってもらえるようなまちづくりが必要かと思って取り組んできました。

 米原市の高齢化率は約25%(伊吹地域は約28%)、全国よりも10年早く高齢化が進んでいます。伊吹地域で、医療と保健、福祉が連携して取り組んできた結果、高齢者一人あたりの医療費は徐々に下がり、平成14年度には51万円と滋賀県で最も少なくなりました。これが行政を動かし、保健・医療・福祉の統合施設の建設の計画が進み、平成18年にケアセンターいぶきができました。平成17年に4町が合併してできた米原市においては、高齢者医療費は上昇しているものの、滋賀県平均に比べると約10万ほど低い状態です。
 米原市における包括的ケアを進めるためには、市民の方々に次のような意識を持っていただければと思います。@子育てしやすいまち、子どもに「帰っておいで」といえるまちにしよう。A高齢者に生きがいを持って生きてもらおう。B家や地域における役割を持ってもらおう。C老いても家で暮らそう。D家で死のう。
 このようなまちにするために、私たち医療・福祉にかかわるスタッフは、以下のような意識を持って取り組みます。@リハビリをして家に帰す、畑に帰す医療や介護を。A介護のお世話になっても畑ができるように。B高齢者に入院はできるだけさせない。Cお嫁さんを働きに出せる、仕事に行ける介護を。D命の大切さを子どもたちに伝えよう。

 地域包括ケアは、患者さんや要介護者を中心にして、さまざまな医療や福祉の資源が連携しながら、自宅で住み続けることができることを支援するシステムです。地域包括ケアセンターいぶきは、既存の医療・福祉の資源において足りないものだけを作りました。施設完結型ではなく、地域完結型の医療・ケアを目指します。社団法人 地域医療振興協会は、全国に42の施設を持ち、医師600名を含め全職員5000人の大きな組織です。いぶきの理念は、@地域包括ケアの実践、A全国への情報発信、B経営基盤の安定、C文化の交流点、D次世代の育成としています。

 6つの診療所(出張所)、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、デイケア(通所リハビリ)、老健施設(ショートステイを含む)などの複合施設で運営しています。医師は、患者さんのあらゆる問題に対応する地域医療・総合医療・全人的医療ができるよう努力します。全国から研修医や医学生が地域研修に来ていますが、単なる「診療所の医療」ではなく、「地域包括ケア」を理解してもらえればと考えています。
 老健施設は60床ありますが、この施設の特徴として「地域支援とリハビリ」を理念とし、3ヶ月間の間に車いすで来た人は歩けるようにして帰す、食べることができない人を食べられるようにして帰すことを目標とします。家に帰すことが前提で、実際に平成20年度は80%の人が在宅復帰されました。ショートステイを増床し、100〜120人が30床のショートステイを利用し、リハビリをして生活機能を上げたり、家族の休息に使ってもらったりしています。
 訪問看護ステーションは、看護師3名で伊吹地域・山東地域を中心に在宅療養を支援しています。人数的には不足する分は、近隣の訪問看護ステーションとの連携をしていきます。デイケアは、入浴機能がないため、純粋にリハビリをしたい意欲のある人が利用されていて、在宅でも生活の質を落とさないように(上がるように)努力しています。

 リハビリ部門は、ケアセンターいぶきの中心部分となりますが、@診療所外来から来る医療のリハビリ、A介護のお世話にならないための介護予防のリハビリ(パワーリハビリ)、B通院が困難な人への訪問リハビリ、C入所している人のための老健のリハビリ、D在宅療養の質を維持する通所リハビリを包括的に行っています。米原市の特徴は、「地域循環型の医療・ケア」であり、家を中心に通所でリハビリしたり、入所でリハビリしたりできるようにします。

 在宅医療は、医師による訪問診療が年間1700件、看護師による訪問看護が1500件、リハスタッフによる訪問リハが400件程度行っており、徐々に住民の意識が、「家で過ごすことが当たり前」、「最期まで家でみたい」というようになってきました。平成20年度の在宅看取りは37人であり、伊吹地域に限定すると全死亡の4割になっています(全国平均は15%程度)。

 高齢者が家で過ごすことは、高齢者のためだけでなく、介護する子どもや孫などへ「死ぬこと」「生きること」の大切な教育の場となっています。家族を大事にする、命を大事にする思いやりのある次世代になってくれることを祈っています。この在宅医療・ケアは、一人ではできないため、様々な職種のスタッフがチームを作って取り組まなければなりません。

 社協や市役所との連携、近隣のNPOや民生委員さん、福祉委員さん、老人クラブなど、いろんな人との関わりの中で、地域全体がまちをつくっていければと思います。決して楽なことではありませんが、みんなが少しずつ苦労することで、あったかいまちができるのではないでしょうか。