第49回 全国国保地域医療学会

地域包括医療・ケアの輝く未来へ

2009.10.2〜3 仙台国際センター

 毎年参加している全国国保地域医療学会。滋賀県の中では、まだ地域包括ケアに対する意識が高いとは言えず、自分たちのビジョンがこれでいいのか揺らぐことがあるのですが、この学会では全国で一所懸命に取り組んでいる人たちが集まってきていて、安心します。東京発信の医療・福祉では、日本は良くならない。地域が発信してこそのよき地域医療・ケアだと思います。

 また、私たちのやっていることは、開拓者(パイオニア)ではないことを再確認しました。いろんな開拓者(パイオニア)からの情報をもらって、ようやく自分たちがついていっているわけで・・・まだまだ2番手。しかし地に足のついた2番手。自分たちが実践していることは、どなたにも曲げることのできない事実です。今年もたくさんの同級生、先輩、後輩に出会い、元気をもらいました。ありがとうございました。
(記事に関して不快に思うことがありましたらご連絡下さい。掲載したことは自分への糧として乗り越えたいと思っています)

去年の学会 2年前の学会


5時間で米原→仙台へ

福井 中村伸一先生は一躍有名人に
「プロフェッショナル仕事の流儀」で言えなかったこと

口演発表 中村副センター長
老健における在宅復帰と地域支援について

平均89歳の伊吹山3合目登山や、
平均87歳の福井芦原温泉旅行や

国保直診の役割と進むべき道 (画面は、大分県姫島村 藤本村長)

大会議場。このあとの公開講座では満員でした

町の医師と、町長が同じビジョンで

「しあわせ」を実感するまちづくり

診療所で教えるプライマリケアを実践&教科書
前沢先生(北海道大学教授)

地域の医療が良くなるためには、
@首長、A医師、B医療システム

免許の人(医師)と選挙の人(首長)が歩み寄る
・・・藤沢町民病院長 佐藤先生

大事なことは、
住民と、一人の人間である医師との会話

ソーシャルキャピタルが今年のキーワードか
お互いさま、ご近所の底力を社会システムに

安全で健康な町・健康を守り育てる人々・
それを支える風土

『あったかな医療を作ろう』市民公開講座
で鎌田先生

聖路加国際病院副院長の細谷先生 と こどもの命

医療は治療だけでない・・・山口昇先生のご講演
Humanity (人をみる医療)を!

健康・医療・介護・福祉、そして生活の視点!
チーム医療・ケアであり、包括的医療・ケア

夜の懇親会で同級生。自治医大准教授 石川先生
姫島診療所長 三浦先生、
名田庄診療所長 中村先生、私
その後は、牛タンや宮城の地酒を楽しみ、仲間と語らい、夜が更けました・・・二日酔い


翌日のポスターセッションにて

外来ナースを代表して水上Ns.

地域包括ケアを学ぶ研修について畑野

近江診療所を公設民営化(指定管理)して
児玉事務課長

興味深く聞いていただきました

薬を粉砕する必要がないという報告は興味深く

発表も終わり帰路につく・・・1泊2日で学会場と飲み屋しか行かなかったワ。もったいない

IVH(中心静脈栄養)をしながらでも、住み慣れたわが家で過ごすことを支援しているという発表

国保診療所を国保のまま指定管理により民営化し、サービスを充実させているという発表。
外来リハビリ新設、筋トレ実施、24時間体制の在宅支援診療所化

年間20人(のべ250日)の研修医・医学生を受け入れ、地域包括ケアを理解してくれるドクターを育てたい

地域包括ケアを学ぶ地域医療研修
滋賀県米原市 地域包括ケアセンターいぶき ○畑野秀樹 中村泰之 桐ヶ谷大淳 川城麻里
【目的】
  地域包括ケアを学ぶ研修プログラムの工夫と今後の課題を検討する
【背景】
 当センターには毎年20名(のべ250日)程度の研修医や学生が地域研修に来てくれる。しかし、病院から来る研修医の中には、診療所での医療や技術を求めてくる人があり、それでは病院の研修と変わらないし、当方で学んでもらいたい『地域包括ケア』が伝わらないことがある。 
研修に来る期間は1週間であることもあれば、3ヶ月であることもあり、様々である。
 『病気の治療』を目的とする病院の医療をそのまま地域に持ってくるのではなく、地域の診療所にしかできない『住民を元気にする』医療やケアを研修医に伝えることができないだろうか? 医療だけを求めてくる研修医に対して、『保健』や『福祉・介護』や『生活』を含めた、地域包括ケアを研修する場を提供したい。そんな思いで、医師として地域を見るプログラムではなく、地域住民の視点からのプログラムを作成した
【方法】
 地域包括ケアにはあらゆる職種が関わっており、教育資源が豊富にあり、いろんな事が実習になり得る。あらかじめ個々の研修医とメールなどで打ち合わせをして、やりたいことを前もって知っておき、具体的であれば優先して実習できるよう努めているが、特に以下のような点を学習目標としている。
  
@地域を知ること、
  A多職種の現場を体験すること。
また研修に当たっては、患者さんや家族から快く受け入れてもらえることに配慮し、同時に多職種のスタッフにも研修の目的について理解いただき、協力していただいた。
1.         地域を知る
 地域の数だけ医療の形があり、必要とされる医療も異なってくる。地域住民の生活や環境を知らずに地域医療はできないと考え、まずは地域を知ってもらうことが重要であると考えている。
 研修初日には、地域の特徴を地図などで説明した上で、車を貸し出して、名所を巡るなどの課題を与えている。例えば、
@    伊吹山登山
A    伊吹山文化資料館に行く
B    琵琶湖の写真を撮ってくる
C    伊吹そばを食べてくる
D    名水百選の名水を飲んでくる
E    関ヶ原の戦いの戦場跡を見てくる など
 
 医療には直接関係ないようにみえるが、地域包括ケアを学ぶ上でのフィールドや歴史・文化を体感してもらうよい機会となる。
2.         多職種の現場体験
 外来実習など臨床的な実習は、他の診療所や開業医ですでに経験している人が多いこともあり、介護・福祉の現場体験に多くの時間を費やせるよう実習プログラムを組んでいる。
 研修医のフィードバックを通して、しばしば感じることは、「ケアマネの仕事について知らないことが多い」、「介護保険のことについて具体的に教わったことがない」ということである。例えば以下のような研修を体験してもらう。
老健施設で、利用者の食事介助や入浴介助をする
ヘルパー訪問に同行して、寝たきりの人のおむつ交換を行う
デイケアで、利用者の送迎を手伝う、レクレーションに参加する
ケアマネと同行し、高齢者宅を訪問する
医師になってはできないことを実習の中心に位置づけている
 実習スケジュールの順序としては、前半に介護スタッフや住民により近い実習を経験できるようにし、後半に臨床的な実習を入れている。その方が早く地域にとけ込むことができ、他の職種の仕事や患者の視点から医師の姿を見ることで、医師に求められている能力や態度を客観的に知ることができる。
研修医にとっては、病院の常識が通じないため、カルチャーショックを受け、戸惑ったり面食らったりすることも多いようだが、むしろショックを与えることも新たな気づきにつながると考えている。
3.         患者・家族・多職種の理解と協力
 研修開始前には、前もって各部門の関係者に十分説明をして、研修の受け入れに理解を得ておく必要がある。日常業務に支障をきたさないよう、現場スタッフの意向を尊重して行う。
 実際には、実習受け入れに慣れたベテランスタッフがいれば、うまくフォローしてくれるばかりでなく、研修医に貴重なメッセージを伝えてくれる。NPO法人小規模多機能デイサービス、社会福祉協議会、院外薬局、障害者作業所などセンター外の施設にも同様に協力をいただいている。
 また、実習中に関わる患者や家族に配慮することは大前提であり、施設内には紹介ポスターを掲示したり、往診には実習受け入れに協力的な往診先を選ぶなどの方法をとっている。実際にはどの人も非常に協力的で、「よき先生」になってくれる患者や家族も少なくない。
 地域医療研修を通じて、患者・家族や多職種スタッフに「地域全体で医師を育てている」という意識が芽生えてくることにより、研修医を接着剤として使いながら、より密接な連携ができるようになった。副次的な効果として、介護士が医師に教えるという機会を通して介護職のプライドと働く意欲を高め、スタッフの離職率がとても少ない。
【結果】
 研修医には、日々の振り返りとしてポートフォリオ形式のレポートとしてフィードバックを受けている。病院の研修では得られないような気づきを得て帰ってもらっている。特に医師以外の職種の仕事を経験することは、地域包括ケアを理解する上で重要な役割を担っていると考えられる。
研修から得られたこと
・入浴介助がここまで大変なことだとは思わなかった
・介護スタッフが個々の利用者のADLを把握して、最低限の介助でADLを落とさないよう工夫していることがわかった
・主治医意見書を書いたことはあるが、その意見書がどのように活用されているか初めて知った
・患者さん、介護士さん、看護師さんたちの率直な意見を聞くことができたことは大きかった
・歓迎会にて医師、看護師、介護士などの職種や年齢に関係なくフランクに楽しんでいる場は初めてだった
・過疎地の高齢者は十分な医療が受けられないイメージがあったが、実際は日々の暮らしを大事にする充実した医療があった。病気があっても、自宅で過ごす人たちが幸せそうに生きている姿が印象的であった
・実際に在宅医療や介護サービスを見てきた今なら、患者さんの在宅の希望がかなうよう援助ができると思う
【課題】
 課題として、研修医が医学的知識や臨床技術の向上を目的としてきた場合は、実習内容に戸惑うことが多い。これは実習に入る前に研修を受ける側のニーズと、提供できる内容について確認し、すり合わせることで改善できるであろう。事前のメールのやりとりが何度もできた研修医とは、比較的満足できる内容となっているが、メールのやりとりなしで来院された研修医との間ではトラブルになることがある。
 またコミュニケーション能力を求められる実習が多く、特に認知症の高齢者とのコミュニケーションは慣れていない人にとってはストレスを感じることがある。白衣を着た医師ではなく、他の職種の一人として高齢者とコミュニケーションを取ることに戸惑うようだが、すぐに意識を変えて学び取ってくれるケースが多い。コミュニケーション能力を養うよい機会でもあり、周囲とうち解けやすくなるような環境整備はしていきたい。
 今後の課題の一つとして、一医療機関完結では受け入れる研修医や学生の数に限界があり、さらに地域完結型として取り組んでいる。滋賀県の自治医大卒業生が広域に連携して、様々な研修ができるように取り組み始めた。今年度から、滋賀県内の自治医大卒業生と、滋賀医大とが協力して、自治医大生・滋賀医大生合同ワークショップを開催することとなった。地元医大においても、地域包括ケアに対する理解が深まれば、これからの地域医療にとって大きなメリットになると考えている。
【まとめ】
 高齢化社会が進むとともに、患者さんは様々な疾患とともに暮らしていかなければならない。病気だけを見るのではなく、患者さんの家族や歴史などを含めた全人的な医療、地域包括ケアが求められている。患者さんを理解し、多職種の仕事を経験することで、地域包括ケアについての理解がより深まっていくと考えられる。
 また、地域の住民にとっても自分たちが良い医師を育てようという意識が出てくる。多職種のスタッフにとっても将来のよきパートナーとなる医師を育てようという意識がでてくる。
 一医療機関だけでは、研修医や学生の受け入れに限界があるため、今後は県単位において、情報を共有しながら、連携して良い医師を育てていきたい。