第52回 全国国保地域医療学会

地域包括医療・ケアに新しい風を

2012.10.5〜6  熊本市国際交流会館


   
地域における介護老人保健施設(老健)ショートステイの役割 〜1ヶ月に170人が入所する施設となって〜

滋賀県 地域包括ケアセンターいぶき  畑野秀樹


少子高齢化が進む日本において、国を挙げて「地域包括ケア」の実践を推進している。地域の住民が安心して住み慣れた地域で最後まで過ごすことを支援する必要があり、多職種連携、チーム医療・ケアなどが声高く唱えられている。また全国の老健施設でも、『地域包括ケアの推進』の中心に老健施設を位置づけることを唱えており、老健の期待されている役割は大きい。

国保施設は、病院や診療所が多く、老健施設を持っているところは少ない。しかし、これからの時代を考えたとき、在宅支援、リハビリ、多職種連携にふさわしいのは老健施設と考えられる。

私たちは、老健施設を中核にして、包括的な地域医療・ケアを推進することを試みている。その一つが、在宅を支援する老健ショートステイの機能強化である。1日に平均12人が入退所する高回転ショートを動かしてみて、確かにスタッフの負担は増えるものの、在宅療養を支援できていることを実感する。
   
   
【方法】地域包括ケアセンターいぶきの老健施設は、60床のうち30床をショートステイ枠としている。また緊急ショート枠として2床を確保するようにしている。1ヶ月の利用者は120名で、入退所が月に340名前後となっている(入所170名、退所170名)。したがって入所期間は短く、平均4日である。平均要介護度は、徐々に上昇傾向で、3.7であり、要介護5の人の占める割合が最も多い。

今回、利用者・利用者家族へのアンケートを行った。対象は平成24年6月に、いぶきのショートステイを利用した120名。実際には利用者に書いてもらうことは少なく、全て利用者家族からの返答であった。また、米原市内でいぶきのショートステイを利用したことのあるケアマネ41名に対してもアンケートを配布した。
【結果@】利用者家族へのアンケートであるが、回収率は 61.2%であった(74/120)。利用者の要介護度別については、要介護5が36%で最も多く、要介護度4が16%、要介護3が22%、要介護2が15%、要介護1が8%であった。要介護4,5の重度の利用者が半数以上を占め、胃瘻栄養や食事全介助の人など介助量の多い人が多い。

平均年齢は 89.6歳であった。

「ショートステイは利用しやすいですか?」という質問に対しては、99%の人が「はい」との回答であり、「希望どおりに利用できますか?」という問いに対して、76%が「はい」と回答していた。
   
【結果A】「ショートステイを利用することで在宅生活は送りやすくなりましたか?」という質問に対して、「はい」と答えた人が96%あり、その理由としては、「休養がとれ、自分や家族の用事ができる」と答えた人が 93%、「体調の観察や、処置、入浴などのサービスを受けられる」と答えた人が 78%、「長期の入所を申し込まなくても在宅での生活を続けられる」と答えた人が 41%、「利用者に集中的にリハビリを受けてもらうことで、歩く力などが保てる」と答えた人が 32%と、予想通りの機能が果たせていることがわかる。

その他の事由意見にも、「気持ちにゆとりができ、笑顔で接することができる」など、好意的な意見が多かった。ただし「希望と日数が確保できず、かえって忙しいときがある」という意見もあった。
【結果B】次に「ケアセンターいぶきのショートステイは、原則2週間までとしていますが、その期間についてはどのように感じますか?」との問いには、79%の人が「ちょうどよい」と回答していた。2週間では短いという人は、思っていたよりも少なく 7%に過ぎなかった。

しかし、「改善すべき点について」問うたところ、「ショートステイの期間を長くしてほしい」という人が 19%あった。このことは、2週間希望していても10日しか取れないなど、希望と現実とのギャップに対しての不満から来ているものと思われた。また、改善すべき点の最も多かった意見が、「送迎の時間や、曜日の制限」についてのものであった(26%)。当施設が、月〜金の平日は、施設の送迎車で送迎しているが、土日・祭日は、家族送迎をお願いしていることへの要望であった。施設運営上、スタッフのマンパワーとしても、1日16人の入退所がぎりぎりのところであり、土日送迎のための人員を割けないという事情がある。送迎時間も9:30から送迎車が出発しているが、9時に送迎してほしいという要望もある。すぐには対応は難しいと思われるが、今後の課題と受け止めている。リハビリへの期待も多く、もっとリハビリしてほしいという意見も 15%にあった。
   
【結果C】ショートステイにおいて、看取り機能も必要と考えており、実際に年に5人くらいの看取りを行っている。ただ医師や看護師など医療職は、看取りに慣れているが、介護職は開設7年目であり若い職員が多く、またデイサービスなどの現場から来ている職員も多く、「看取り」への不安が当初強かった。老健ショートステイが、「家」の役割も果たしていこうと思うと、積極的に看取っていく必要がある。このことを踏まえて、「最期の看取りをいぶきのスタッフに任せてもいいですか?」と質問したところ、「はい」と答えた人が74%あり、家族にとってもショートステイがあるお陰で最期まで在宅療養が続けられるという安心感につながっていると考えられた。
最後に「ケアセンターいぶきのショートステイの満足度は 100点満点中の何点ですか?」という問いに対して、100%点と答えた方が最も多く、平均でも89.6%と高く、非常に高い満足を感じていただけるものと考えられた。
しかし、「ケアセンターいぶきに対する要望は?」という問いには、たくさんの意見をいただいた。先ほどの改善点と同様に、土日祝日も送迎してほしい、朝9時から受け入れをしてほしい、入浴の回数を増やしてほしい、家庭の事情により希望日や期間などに柔軟な対応をしてほしい、利用したいときに気軽に取れるようにしてほしい、もう少し長く預かってほしい、リハビリをして歩けるようにしてほしい、職員を増やしてきめ細かい個別対応をしてほしい、暗い感じがするので明るい雰囲気で接してほしい、ショート中の様子を詳しく報告してほしい、介護のプロとして介護しやすくなるようなアドバイスをしてほしい、歯科診療の整備をしてほしい、子どもたちとのふれあい・家族参加の機会を増やしてほしいといった意見があった。

これらの要望とともに、たくさんの感謝の言葉もいただいており、期待の大きいことがわかった。
   
【結果D】次にケアマネを対象にしたアンケートについて報告する。回収率は 90.2%(37/41)。「ショートステイは利用しやすいものになっていますか?」という問いに対し、87%の人が「はい」と回答した。その具体的な理由として、「家族の介護負担の軽減になっている」が 84%、「集中的にリハビリを提供することで、歩く力などが保てる、現状が維持できる」が 59%、「体調の観察や処置、入浴などのサービスを受けられる」が 51%、「長期の入所を申し込まなくても在宅での生活が続けられる」が 41%であった。
「いいえ(利用しにくい)」と答えた意見は、地域密着型のため米原市以外の人が利用できない、とのコメントであった。

【結果E】「ショートステイは原則月に2週間としていますが、その期間についてはどう感じますか?」という質問に対しては、81%の人が「ちょうどいい」との回答で、「長すぎる」「短すぎる」という回答はなかった。しかし、その他の意見として、利用者や家族の状況で2週間以上の利用も検討してほしい、ケースバイケースで対応してほしいというコメントがあった。

「ケアセンターいぶきのショートステイの改善すべきところは?」という質問には、圧倒的に多かったのが「送迎の時間、曜日の制限」に対してであり(46%)、利用者家族の気持ちを代弁したものと考えられる。その他、送迎の範囲を広くしてほしい、米原市以外の地域の人も受け入れてほしい、新規の受け入れ待ちが長い、希望通りとれない(5日希望したのに4日しか取れないなど)というコメントがあった。
   
【結果F】「ショートステイを利用することで、在宅支援ができている充実感がありますか?」という問いに対して、89%の人が「はい」と答えており、「いいえ」という回答はなかった。ショートステイが、ケアマネにとっても在宅支援の役割が大きいととらえている。

「ケアセンターいぶきの満足度は100点満点中、何点ですか?」という問いに対して、90点と回答した人が最も多く、平均で88.7点と、利用者家族へのアンケートと同じような満足度であった。

「ケアセンターいぶきに望むもの、期待することは何ですか?」という問いに対して、たくさんの意見をいただいたが、主なものとして、入退所の日を融通を利かせてほしい、米原市以外からも受け入れてほしい、米原市内に同じような施設を作ってほしい、長浜市にも2号館を作ってほしい、包括的ケアの窓口を開設してはどうか、医療依存度の高い人を今後も受け入れてほしい、ベッド数を増やしてほしい、新規利用者を増やしてほしい、状態が急に悪くなったときの受け入れをしてほしい、などであった。実現困難な意見が多いが、それだけの期待の大きさを感じられた。
   
【考察】ショートステイを30床と増やし、120人の人を受け入れる(複数回利用もあるため、1ヶ月のショート入所は170人となる)ことにより、在宅療養がしやすくなったと答える利用者家族が96%であった。ケアマネも在宅支援を支援している充実感があると答えており、在宅ケアの推進のためには、ショートステイの受け皿が重要である。
 ケアセンターいぶきの満足度は、家族が90%、ケアマネが89点で、かなり満足していただいている。非常に回転の速い(平均入所日数 4日)施設となり、スタッフの負担も大きいが、利用者の満足につながっている。ショートステイへの希望として、土日祭日も送迎してほしい、早い時間・遅い時間でも対応してほしい、もっと個別対応してほしいといった要望が多かった。現状では実施が困難ではあるが、近い将来での解決すべき課題と考えられる。
【結語】地域で安心して最後まで過ごしたいという思いを叶えるために、地域包括ケアシステムの実践が必要となるが、その中でも老健ショートステイの果たす役割は大きい。今回の調査により、当施設スタッフとして、高回転のショートステイは負担ではあるが、在宅支援に大きな役割を果たしていることがわかった。スタッフのやりがいにつながることを期待している。
 また、他施設の老健では、ショートステイが長い入所(ロングショート)になっていることが多く、特老などの施設入所待ちに使われている。しかし、できるだけショート枠を増やし、在宅療養の支援の要になっていただきたい。