第23回全国介護老人保健施設大会 美ら沖縄

平成24年10月3日(水)〜10月5日(金)
 
 主催: 公益社団法人全国老人保健施設協会
開催場所: 沖縄県宜野湾市  沖縄コンベンションセンター ほか

全老健(沖縄)に、いぶきより2題出してくれました。他施設の老健スタッフと話していると、職種間の壁に悩んでいらっしゃることが多いようです。 いぶきにおいては、老健の主役は利用者の24時間を看る『介護士と看護師』であり、それをサポートする療法士や栄養士、薬剤師、その後ろを支えるのが医師というスタンスにしています(フラットないし逆三角)。それぞれのスタッフがブレインとして動いてくれれば、『利用者のため』に集中できます。いぶきはこの点でうまくいっており、利用者目線の仕事ぶりに感謝をしています。
2題目は、脳血管障害で嚥下障害、失語になった事例。病院で胃瘻を作って老健に入所されましたが、上手く経口摂取に移行し、長い間胃瘻を使わずにすんでいました。しかし再度食事が摂れなくなった際に、胃瘻栄養と経口摂取を併用することで、栄養状態も改善しました。対処後も在宅療養を継続できています(ショートステイ利用)。家族の食べる食事を寒天で固めた『寒天食』が最も適した『いのちの食事』となっていました。スタッフが一生懸命に考えてくれたハイブリッド案に賛辞を送ります。 

在宅での生活を支えるために

〜ユニットスタッフができること〜

ケアセンターいぶき 老人保健施設 ○中村希 今井友緒子 伊富貴めぐみ

   
【はじめに】
当施設は診療所・訪問看護・通所ケア・老健などがある複合施設である。私は開設5年目に入職したが、それまで老健での勤務経験はなかった。入職当初から人的環境は良く、職種間の隔たりは感じなかったため、老健とはこのような所だと思っていた。しかし他施設では職種間の壁があることを知り、もしかしたらこの良好な人間関係が日常ケアにおいて、開設以来在宅復帰率8割以上・1カ月のショーステイ利用者がのべ330人という数字を維持できていることに反映されているのではないかと考えた。
   
【取り組みと結果
『地域支援とリハビリ』という基本理念のもとにスタートした当施設は、センター長や施設長から「職種間での上下関係はない。」という姿勢が常に発信され、開設7年目に入った今、入職5年未満のスタッフが半数を占め、かつその内7割弱が3年未満のスタッフであるが、この姿勢は崩れていない。ではなぜ良好な関係が維持してこられたのか。
   
まず老健スタッフの意識調査をアンケート方式で実施した。結果は看護師・介護士の連携がスムーズにいくように全スタッフが意識していることがわかった。具体的には「医療的な部分も、とにかく説明する。」「報連相を徹底し、情報の共有を図る。」「相互にできる事を協力しあい、円滑に業務を行う。」「介護士でも医療的な発言ができるように、医療面について学習する。」などであった。このように全員が働きやすい人的環境を作ろうという姿勢が見られた。
   
日常ケアにおいては入所者が退所する際、多職種・家族が参加して退所前カンファレンスを開催し、ケアの内容が退所後の在宅生活でも継続できるように情報の共有を図っている。そして在宅生活を支援するため、現場スタッフの声により、ショートステイ枠を開設時10床であったものを、現在30床まで拡大した。
また看取りケアも『日常生活の延長線上の出来事』としてとらえ、日常ケアにあたってきたスタッフが「最期の時が近い。」と感じると相談員に報告し、各職種間で連携をとって利用者・家族ともに納得のいく最期が迎えられるように取り組み、今年度(4月〜6月)も7名の利用者を見送ることができた。
   
【考察】
 スタッフ全員が働きやすい人的環境を作ろうという姿勢をもつことで、良好な職種間関係=チームワークにつながっているのではないだろうか。また職種間の上下関係がないことで、スタッフ個々が責任を持ち、根拠あるケアに携わり、失敗を恐れず、困難なケア課題にも意欲的に取り組めるようになったと考える。
 そしてこれらの姿勢が、個別ケアの原点である『その時、その状況にあったケアの提供』へとつながり、在宅復帰率の維持や多数のショートステイ利用者の対応にも結び付いたと思われる。
   
 また当施設での職務経験の浅いスタッフが多いが、個別ケアの原点を共通認識としてもつことで、新旧の視点が合わさったユニットとして機能し、ユニットという単体がまとまり、スタッフ全員が『目の前の利用者のために』という姿勢をもってケアを実践することができ、他施設の在宅サービスを含む様々な外部ともスムーズに連携を図り、利用者の日常ケアに還元することができているとも考える。
【まとめ】
 老健での看護師の役割は利用者の健康管理・健康問題の解決を図ることだが、利用者の生活に重点をおいて関わりを持つ介護士との連携ができてこそ、果たせる役割だと改めて感じた。そして職種にかかわらず、『利用者のために』という共通の姿勢でケアに関わることで、互いの信頼感を高めることができ、良好なチームワークが生まれ、質の高いケアの提供へと結びつくのだと改めて痛感した。やはり多職種がいる老健施設において、看護師・介護士の関係を始めとする『職種間の隔たりの一番の被害者は、目の前にいる利用者である。』ということを私たちは忘れてはいけない。
 今後もこの言葉を大切に、目の前にいる利用者が抱えている様々な日常ケア課題に挑んでいきたい。
 


嚥下障害のある利用者の経口摂取維持への取り組み

〜「食べたい」思いに応えたい〜

ケアセンターいぶき介護老人保健施設  看護師 ○新川康子

   
はじめに
 平成20年に外傷性脳出血後遺症で胃瘻を造設したものの、食べたいという欲求が強く、当老健で嚥下訓練を実施し、胃瘻から経口摂取へ移行出来た利用者様がいらっしゃいました。その後も、家族介護支援の下、3か月入所とショート入所を利用されてきましたが、徐々に嚥下機能が低下し、再度胃瘻へ移行するかどうか、嚥下の危機に直面してきました。食べたいという本人の思い、食べさせてあげたいという家族の思いは強く、私達スタッフは経口摂取を維持することは出来ないだろうかと考えました。多職種が連携し関わった結果、経口摂取を維持することが出来たので紹介します。
   
事例紹介
 80代 性別;男性 要介護;4 です。
対策・方法
 1)嚥下機能の評価・実践し、
 2)食事形態の評価・実践・変更を行いました。
経過ですが、表をご参照ください。
   
結果1
1)嚥下機能の評価
 ・舌の動きがなく、送り込みが出来ない。
 ・暖かいものより、冷たいものの方が嚥下ができる。
2)食事形態の評価
 ・一口大のおにぎりをむせなく摂取できるのですが、ゼリー食はむせてしまいました。
結果2
1/7入所後、多職種(医師、看護師、介護士、PTOT、管理栄養士、歯科衛生士)が連携し、毎日摂取状況を観察し、摂取時の姿勢、食事形態、嚥下体操、口腔ケアのアプローチを試みました。それでも、徐々に飲み込みが悪くなる中で、低栄養状態も問題の1つであると考え、幸い胃瘻が残っていたため、家族と相談し胃瘻を再開することにしました。ある程度の栄養を確保することで体力・気力が向上し、その結果嚥下機能も向上でき、4/7に退所することが出来ました。
   
考察
・平成20年に当施設を利用開始してからの4年間、本人・家族の「口から食べたい、食べさせたい」の思いを受け、在宅生活を支援してきました。しかし、加齢に伴い、体力・気力の低下があり、全身状態の低下と共に、嚥下機能も低下してきたと考えられます。
介助での摂取は、自分で食べるという楽しみを奪ってしまいQOLは維持出来ないと考えましたが、体力が更に低下し表情も無くなって来た時、寿命と受け止めるか、胃瘻を再開するか、家族の思いを再度確認した時、私達の方が「ずっと経口で」という本人・家族の言葉に縛られていた事に気付きました。
胃瘻と経口摂取を併用することで胃瘻から確実に栄養が摂れて体力が少し戻り、そのため嚥下機能も少し改善し、その結果、安定して摂取出来るようになったと考えます。
・退所して最初のショート利用の時、家族より寒天食を食べさせていると聞きとても驚きました。どの文献をみても、寒天は本来、塊もゼリーより硬くて口の中で噛むとバラけてしまうので、嚥下機能が低下した人には不向きな食材であると記載されています。しかし、色々試した結果、持参してもらった寒天食が一番むせなく摂取出来ることが解りました。窒息のリスクが高いと思うのですが、寒天であれば一口大に切れて手づかみで自力摂取出来ます。その事は、食べたい、自分で食べたいという欲求を十分に満たしているものであり、食に対するQOLを維持出来たのではないかと思います。また、家族が食べているのと同じもので作ってあるので、本人にとって食べ慣れた味付けのものを摂取出来る喜びがあります。家族の食べる楽しみを何とかして続けてさせたいという思いに私達スタッフはとても感銘を受けました。ただ口から食べるのではなく食べるという意味を考えながら、今後も在宅支援をしていくのが私達の役割だと考えます。
   
まとめ
・寒天食が本人にとって一番食べやすい形態であった。
・多職種が連携し考えることで、経口摂取の幅は広がる。
・家族の思いや支えが不可欠である。
・文献や、自分たちの知識に囚われず、個人個人に合わせた食事形態を考えていくべきである。
終わりに
 年々、嚥下障害が悪化している利用者が増加しているため、個々の嚥下の状態をしっかり判断し、個人にあった食事形態や姿勢などを見つけ出し、安全に楽しみを持った食事が継続出来るように援助していきたいと思います。