ケアセンターいぶきをどうするか? どんな米原市を望み、どうするのか? 
人生の集大成をどのように迎えるか?

2014.3.30

地域包括ケアセンターいぶき  畑野秀樹


先日、『医療福祉を推進する湖北地域協議会』事務局より、資料を送っていただきました。日常の仕事の中で、机の上に積んでおいたのですが、年度末になり、捨てる前に一読してみました。その中で、長浜保健所の作成されたグラフにくぎ付けになりました。
 
 
 
場所別死亡状況というデータは、死亡診断書からデータを抽出しなければなりません。米原市役所にもその資料はなく、保健所だから作っていただくことができた資料であり、私たちがおいそれと聞くわけにはいきません。保健所から出していただいたことに感謝します。

長浜市と米原市に相当する湖北圏域(人口16万人)は、以前から自宅での死亡が多いとされていました。理由として、病院が少ない、家族が多い、自宅で看取る文化があるなどと言われています。しかし実際には、紹介をすれば必ず診てもらえる病院の存在がありますし、2世代・3世代同居は少なくなり、独居高齢者、高齢者世帯が多くなっています。若い人は仕事に行くため、日中は独居となるケースも非常に多くなりました。家族も地域の医療関係者も、「家では無理」といわれることも少なくありません。

そのため、自宅での死亡割合は他地域に比較して多いにしろ、これ以上は容易に増えないと思われます。実際にグラフでも、湖北での自宅での死亡は20%あまりで頭打ちになっています。ケアセンターいぶき医師の在宅看取りは、年に30〜40名くらいで、やや増えている印象はありますが、往診数自体が若干減ってきています。(伊吹・山東地域での自宅看取りは、平成22年度でそれぞれ33%、30%) 

最近の傾向としては、がん患者さんが増えてきていると思われます。病院で治療の効果が認められなくなったと説明され、『家に帰りたい』と希望される患者さんやご家族は少なくない。米原市では、毎日でも訪問できる往診、訪問看護、ホームヘルプがあり、24時間体制で医師や看護師が連絡できる対応をしています。また末期でもショートステイを受け入れる体制があり、ご家族が介護で疲れすぎないようにできています。最期まで元気で過ごしたい、トイレに行きたいと希望されるケースに、リハビリのスタッフが関わることができます。在宅での治療として、酸素や点滴はもちろん施行可能ですが、医療用モルヒネなどを早いうちから使用し、できる限り『苦痛の少ない』在宅療養を目指しています。(酸素や点滴については「しない」という選択肢も十分あります)

また、高齢で認知症を持ちながら、進行がんが判明した人については、圧倒的に家の方が療養しやすいと思われます。患者さんにすると、住み慣れた環境で、家族関係も崩さないで過ごすことができるため、認知症が悪化しにくいという利点があります。認知症があると『悩みを忘れる』ことができるため、『今の痛み』さえとってあげることができれば、比較的楽に過ごすことができます。家族にすると、『いつまで続くかわからない認知症の世話』は、『進行がんによる限りある介護』に変化するため、親身に介護していただけることが多いと思います。


次に、特別養護老人ホーム(特老)や介護老人保健施設(老健)などの介護施設、これに加えてグループホームなどの小希望介護施設での看取りが、湖北では急速に増えていることがグラフより見て取ることができます。私自身も、平成25年の秋に、滋賀県老人福祉施設協議会の依頼を受けて、湖北地域、湖東地域、湖南地域で、施設看取りについての講演をさせていただきました。湖北地域の特老では、7〜9割を施設内看取りしているという発表がありましたが、湖南地域では最後は病院に送っていますとの話が多く聞かれました。湖北地域では、介護施設の職員が、看取りについてかなり経験を積み、自信をつけている印象を持ちました。「自宅ではないが、住み慣れた施設を自宅のように思って、職員も家族のような関わりの中で見送ってあげたい」という思いを多数聞かせてもらいました。

ケアセンターいぶきの老健においても、末期がんを理由に入所を拒否することはありませんし、最期の場所として、病院よりも温かいケアができる場所であると、スタッフが考えてくれます。長いかかわりの中で、たまたま最期の時間が施設であったという考え方をしていますし、亡くなる前日や当日になると、ご家族に『自宅に帰って看取るという考えはありますか?』と聞いて、家族の同意があれば自宅に連れて帰り、家族の見守る中お亡くなりになるケースも少なくありません。

米原市内のグループホーム『縁ひだまり』のような施設においても、『最期まで看ます』とスタッフが取り組んでいただいています。その姿勢が入居者ご本人にも、ご家族にも信頼を得、温かなお別れの時期になっているようです。



とはいえ、湖北地域においても過半数(7割)の方々は、病院で亡くなっていらっしゃいますので、病院の存在なしには安心して病気の治療や療養ができないのが実情です。病院のもつ専門的な高度な医療技術や看護と、地域の医療機関のもつ、全人的な医療、家族ぐるみの医療がうまく連携できれば、地域住民にとっても安心になると思われます。病院とは今後も密接に連携し、取り組んでいくことが大切と考えます。

米原市では、医療福祉の懇話会や、IPE(多職種連携教育)研修会を重ねています。今後も、広域に、多職種連携、多施設連携、そして地域の資源との協力体制を整えていきたいと思います。


求められる総合医

患者および地域社会のニーズに応じて自らを柔軟に変化させ、それに応えることができる医師
1.患者個人の医療ニーズ
1)幅広い症状に対して診療ができる   (日常対応)
2)初期救急に必ず対応できる   (救急対応)
2.患者の人生・生活を意識したニーズ
1)患者のライフステージに応じた医療を提供できる   (時間的な広がり)
2)家族背景を意識した医療を提供できる   (関係性の広がり)
3.地域社会のニーズ
1)地域の医療資源を考慮した医療を提供できる   (医療資源)
2)保健・福祉を包括して医療を提供できる   (医療以外の資源)

引用: 梶井英治、日本内科学会雑誌 第103巻 第3号 p587-590, 平成26年3月10日