第47回 滋賀県国保地域医療学会

テーマ:「医療・介護総合確保推進法の成立と地域包括医療・ケアの推進」

~安心して住めるまちづくりをめざして~

2015.6.28  琵琶湖ホテル


特別講演 「社会保障と税の一体改革関連法の成立と地域包括医療・ケアの推進」
 厚生労働省医政局地域医療計画課 医師確保等地域医療対策室長 佐々木昌弘氏


研究発表
【演題1】 野洲市ほほえみやす21健康プラン推進委員会での運動に関する健康づくりの取り組みについて
 野洲市健康推進課 管理栄養士 大黒清夏氏
 栄養、運動、歯、タバコ、心、健診の6つの領域に分けて健康づくりの推進に取り組んでいる。運動は+10を啓発しているが、アンケート結果による意識把握
【演題2】 米原市における慢性腎臓病(CKD)対策 -腎専門医・かかりつけ医・地域における連携-
 米原市健康づくり課 保健師 伊賀並愛氏
 慢性腎臓病の予防のために医療機関との連携が必要であることを認識→腎臓内科への紹介システムを構築→病診・行政との連携・懇話会開催→個別事例検討会の実施→顔の見える関係づくりから勉強会へ
【演題3】 日野町の歯科保健対策について
 日野町福祉課 保健師 山中和美氏
 町内の幼児の齲歯数が多く、幼稚園・学校との歯科保健対策会議、健康教育、フッ化物洗口検討会議→実施
【演題4】 病院と地域をつなぐ「看護宅配便」の取り組み ~病院看護師が一歩、地域へ出ることから始めたこと~
 長浜市立湖北病院 看護局長 松田多恵子氏
 湖北病院の医師不足、看護師不足。地域住民の声を聞き、受診しやすい関係づくりを企画した。看護師が地域に出向く「看護宅配便」。健康教室の実施と、病院受診のきっかけ作り。
【演題5】 患児家族のニーズに沿った入院時オリエンテーションの調査
 公立甲賀病院 看護師 山口枝里子氏
 小児科病棟は急な入院が多く、看護師により入院時オリエンテーションがとういつされていなかった。記憶に残りやすいオリエンテーションの仕方、外来と病棟の連携、パンフレットの改善などを検討
【演題6】 離床センサー選択基準の有効性の検討 ~フローチャートを導入して~
 公立甲賀病院 看護師 野坂宣枝氏
 適切な離床センサーを設置できるようにフローチャートを用いることが必要
【演題7】 人工肛門造設により生活様式が変化する患者への退院指導
 高島市民病院 看護師 荒川貴一氏
 人工肛門を作ることで、病院に入院する前と退院後で、生活様式が大きく変わる。患者への退院指導に必要なことを検討した。
【演題8】 当院リハビリテーション科活動状況
 甲賀市立信楽中央病院 理学療法士 岩倉浩司氏
 リハビリテーション科を開設して1年が経過。地域リハビリテーション事業を受託。外来リハが冬場に減少。閉じこもりの予防を「しがらき健康塾」。取り組むべき課題は多い。
【演題9】 施設との連携による医療介護関連肺炎予防活動 -その後の報告ー
 高島市民病院 言語聴覚士 家守秀和氏
 病院から介護施設へ、嚥下認定看護師、感染認定看護師、言語聴覚士が訪問し、学習会、嚥下評価と指導を行った。誤嚥性肺炎患者は15人→2名に減少した。
【演題10】 当院における専門的口腔ケアの取り組み
 高島市民病院 歯科衛生士 渡 彩歌氏
 病棟における口腔ケアの実施、歯科衛生士の役割について。
【演題11】 大腿骨近位部骨折治療における認知症合併症例の問題点
 公立甲賀病院 診療部整形外科医員 本原功二郎氏
 高齢者が大腿骨頸部骨折で入院すると、認知症の問題行動が出現しやすい。病院ではリハビリがうまく進まないケースがある。退院後の地域社会の協力も必要。

パネルディスカッション
「医療・介護総合確保推進法の成立と地域包括医療・ケアの推進」
 ~安定して住めるまちづくりをめざして~


【発表1】 地域包括ケアシステムの実験地としてのケアセンターいぶき
 地域包括ケアセンターいぶき 畑野秀樹
【発表2】 在宅薬物療法に向けた病院薬剤師の役割とは?
 公立甲賀病院 薬剤部 松本名美氏
【発表3】 東近江市における医療再編と今後の課題
 東近江市健康福祉部地域医療政策課 課長 沢田美亮氏


地域包括ケアシステムの実験地としてのケアセンターいぶき

地域包括ケアセンターいぶき  畑野秀樹

地域包括ケアセンターいぶきの畑野秀樹と申します。この施設は、まさしく米原市内の地域包括ケアの推進を目的に立ち上げられた施設です。本日は、ケアセンターいぶきの立ち上げの経緯と、現状、そして課題について話をしたいと思います。
1)はじめに、医療介護総合確保推進法が成立しました。その骨子は、①新たな基金の創設と医療介護の連携強化、②地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保、③地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化です。住み慣れた家や地域を中心に最期まで安心して生活ができるよう、様々な医療・介護支援サービスが連携して支えるというものです。病気になったら病院を受診し、必要であれば入院する。そして再び地域に帰ってくるように、地域の受け皿の整備が必要ですし、地域包括支援センターやケアマネージャーが生活を支えるプランを調整します。介護が必要になれば介護保険を申請し、デイサービスなどの介護サービスが受けられるわけですが、近年は高齢者が増え介護保険事業を圧迫しています。入所施設の整備もされていますが、全ての希望者を受け入れるだけの量はなく、結局在宅療養を中心に据えていく必要があります。またできるだけ介護のお世話にならずに済むように高齢者も社会を支ええる一因として、地域での活動が求められています。
2)米原市においては、合併前の伊吹町の頃から保健・医療・福祉を併せ持った施設を希望する動きがありました。2000年に介護保険制度が始まりましたが、それと同時に保健センターと社会福祉協議会の複合施設「愛らんど」ができました。同じ事務所の中に保健センターと社協の職員が集まることで、地域に密着した住民の情報や家族ぐるみの支援、介護サービスを展開できました。介護保険事業としてはデイサービス、ホームヘルプサービス、訪問入浴事業をしていました。
 2001年に医療と介護の複合施設の建設計画が再度持ち上がりました。町内の開業医さんがご高齢になられたのと、2つの診療所を合わせて医師が複数体制で効率的に医療が提供できるように、また入所できる施設がなかったため、これまでの伊吹町になかったサービスをつけるようにしました。
 2007年に4つの町が合併し、米原市となりました。この計画は幸い合併後にも引き継がれました。
 2008年に地域包括ケアセンターいぶきがオープンし、「地域包括ケアの実験地」と考えて、当時の国診協の地域包括ケアシステムの実現のために運用を開始しました。
 ケアセンターいぶきの立ち上げ時の理念として、
6000人の伊吹地域を中心に隣の1万5千人の山東地域を含め、医師複数体制で対応できるように考えました。また病院がなく病院へのアクセスも悪いため在宅医療に力を入れることとしました。
②長浜市や岐阜県関ケ原町には病院がありますので、急性期は病院にお任せし、在宅療養が可能であれば積極的に受け入れることとしました。またリハビリや訪問看護など、急性期を過ぎても継続して利用できることも考えました。
③保健・医療・福祉を融合した施設を目指しました。幸いに立地的に社協の「愛らんど」と隣接していますので連携が取りやすく、社協にないデイケアやショートステイ、訪問看護などのサービスが提供できるようにしました。ただし、合併後は保健師さんが市役所内に取られてしまいましたので、なかなか保健との連携が取りにくく苦労しました。
④病院や施設から「家に帰す」ことを目標としています。老健は入所期間を全例3ヶ月までとし、在宅復帰を目指しました。
⑤当時も今も、地域の医師が少なく困っていますが、臓器別の専門医の視点だけでなく患者さん全体を診られるように、家族や地域を見る視点を持った医師の育成ができればと考えました。
オープン時の医療介護の問題として、
①米原市内には病院がなく入院ベッドがありません。また病院へのアクセスも悪く、医療資源が脆弱でした。北部の吉槻診療所は患者数が少なく、医療施設やスタッフも少ないため医師の定着に問題がありました。
②リハビリのスタッフが全く足りず、社会復帰を阻害していました。病院から退院したら、リハビリも切れてしまう状態でした。
③在宅療養を支援するためには、ショートステイが必要です。近隣の施設では人数に限度もあり、一度長期入所すると在宅に帰ってこられないため、要介護者や家族に我慢を強いる在宅ケアになっていました。
④保健・医療・福祉の連携の壁、⑤国保直診の機能低下とも関係しますが、合併後は市長と国保直診との距離感が遠くなり、経営状態だけを聞かれるような強いストレスを感じました。ケアセンターいぶきができた際には、公務員ではなく民間職員となったため、行政からの情報があまり入ってこなくなりました。
3)なんとか存在感を出したいと考え、ここを米原市の「地域包括ケアの実験地」と考えることにしました。近隣施設と協力しながら地域住民の役に立てるような運営をすれば、周囲が評価してくれるだろうと。民間の運営になってからは、月々の経営状況を見ながらスタッフを増やすかどうかを決めることができ、運営方針についても年度途中で修正することができるなど機動性が高くなりました。
 純粋に、国診協、山口昇先生のおっしゃる「地域包括ケアシステム」の構築を目指せば、住民全体が幸せになるのか試すチャンスと考えて10年やってきました。成果はあったと思いますし、今は国を挙げて「地域包括ケアシステム」を唱える時代となっており、びっくりしています。
地域包括ケアの実験地としてどのようなことをしてきたか
米原市は人口4万人の滋賀県で一番人口の少ない市ですが、10数ヶ所の開業医・診療所があります。伊吹地域の国保診療所を引き継ぐ形で、地域包括ケアセンターいぶきを立ち上げました。姉川の上流に向けて3つの診療所・出張所を週に3回あるいは1回開けています。また、近江地域の近江診療所の指定管理を受けました。また米原地域の米原診療所には医師・看護師・事務を派遣しています。常勤医師は4名で、看護師は25名ほど、介護士30名ほど、リハ職9名を含め約90名のスタッフでやっています。開業医との競合を防ぐ意味で、外来の他、在宅医療とリハビリに力を入れるようにしています。
②次にリハビリですが、外来・通所・入所・訪問リハビリをシームレスに利用できるようにしています。病院や施設を退所した後も継続してリハビリが継続できます。
ショートステイの機能を強化し、老健60床のうち30床をショートステイとしています。1ヶ月に130名ほどが30床を利用されており、ショートの平均利用日数は4日間と短くなっています。
訪問看護、居宅介護支援事業所を併設し、医療と介護の両面からサービスが提供できるようにしています。同じ施設内にあることで、情報の共有や会議がしやすくなっています。
老健施設は多機能とし、地域包括ケアシステムの要に位置付けています。レスパイトのための入所、身体的ケアのための入所、リハビリを提供してADLを維持・向上させるための入所、問題行動のある認知症患者をケアと薬でうまく調整して穏やかに生活できるようにするための入所、そしてがんや老衰などで看取りをすることもあります。
③多職種協働を実現するためにも取り組んできました。施設内で職種の壁をなくし、話しやすい環境にしています。スタッフが出あったらすぐにディスカッションができるというメリットがあります。また、1994年から21年間継続していますが、保健師と診療所スタッフ、社協スタッフが話し合うケースカンファレンスを月1回開いてきました。ケアセンターができてからは職種も増え、行政職・医療職・介護職・リハ職で集まって顔の見える関係づくりをしています。
 最近では、岐阜県揖斐川町の久瀬診療所の吉村学先生が実践されてきたIPE(多職種間連携教育)研修を取り入れて、米原市内でも何度か開いています。匿名の症例を使って多職種がグループワークをして、楽しみながら多職種間の理解を勧めるのに役に立っています。米原市内外を中心に60人から70人が集まってくれます。最近では民生委員さんに来ていただきました。
 食支援チームの立ち上げは、自律的なグループですが、老健を中心に多職種が最期まで口から食べることに努力をしてもらっています。病院ですと誤嚥性肺炎などがあると経口摂取を止めて胃瘻や高カロリー輸液という選択肢もありますが、老健ではできませんし、人間らしく口から食べることにこだわり、食べられなくなったら看取りについて家族に説明しています。
④地域とのかかわりですが、地元の老人会やサロンへ職員や研修医、学生さんなどが講師として訪問しています。市が中心となっている地域サロンへの支援にも協力し、リハ職や歯科衛生士、認知症に詳しい看護師を派遣しています。
⑤教育へのお手伝いですが、協会や県内の研修医さんを中心に年間10名ほど、これは1ヶ月間のことがおおく1年の半分くらい来ています。また学生さんは医学生、看護学生、リハビリ学生、薬学部学生が来ており、いぶきにおける地域包括ケア、チーム医療などを経験してもらっています。プライマリケア学会の指導医も持っていますが、後期研修医さんに満足できるような研修ができていないのが課題です。
4)さて今後の展望ですが、
①地域の延命策に関わっているように思います。山間部集落を中心に人口が減少していますし、多いところでは高齢化が50%を超えるところもあり、10年したらさらに半減しそうです。独居や老老介護の家が増えており、最期まで自宅で過ごすことが難しいケースも増えているように思います。空き家も増え、地域集落内での助け合い機能も低下し、友達の交流も減少し、住み慣れた自宅にこだわる理由も薄れてきています。
 そのため「住み慣れた地域の中」で最期まで過ごすことに変更する必要も出てきました。老健や特老、ケアハウスやグループホーム、高専賃などがその受け皿となります。私たち医療職・介護職が、インフラとして市内の医療・介護サービスを維持・向上することで、少しでも地域の延命に応えることができたらと考えます。
 今後は、地域サロンをサポートすることで介護保険を受ける前の人々を、できるだけ元気でいてもらえるようにしたいと思いますし、小規模でスタッフの少ないグループホームなどでも看取りができるよう支援していきたいと考えています。
②認知症ケアについては、認知症だけに限りませんが、高齢者を不適切に病院に入院させることで認知症の問題行動が表面化し、寝たきりになったり認知症が進行することがあります。安易な入院は避けたいと思いますし、できるだけ自宅を中心に生活できるように支えたいと思います。また介護する家族が倒れないように、家族が仕事が継続できるような医療・介護サービスを提供したいと考えています。
 しかし一方で、最近悩んでもいることですが、89歳の男性で徐々に食欲がなくなり体重減少が進んで胃カメラをしたら進行した胃癌が見つかりました。手術をして退院されましたが、平均寿命を超えたら胃カメラは不要ではないかと考えていました。86歳の女性は糖尿病で診ていましたが、クレアチニンが上昇しeGFR17ml/分まで低下したため、病院へ紹介したところ、「透析の準備をするように」と言われたそうです。93歳の女性は、完全房室ブロックとなり3年経過しました。ご本人もご家族も高齢だからペースメーカーの埋め込みは希望しないとおっしゃっていたのですが、いざ意識障害が出るとそうも言ってられず病院でペースメーカーを入れてもらいました。
 年齢で「もう歳だし、よいのではないか」と言えないジレンマを感じています。
③死因の3位である肺炎に対しては、できる限りの予防が必要で、滋賀県では65歳以上の高齢者への肺炎球菌ワクチンンも補助をしていただいていましたが、昨年度から国の補助となりました。
先ほども言いました「食支援チーム」の取り組みにより、口腔内の衛生状態を保ち、リハビリをして、食事形態や食べさせ方にも工夫をし、最期まで口から食べられるような取り組みをしています。誤嚥性肺炎の発生が減少している印象ですし、誤嚥性肺炎を理由に病院に入院を希望される人はほとんどいなくなりました。地域住民の理解も得られてきています。
④がん診療については、がんを治療する病院専門医と、全身管理や緩和ケアをする総合医の2人主治医制になり、がんバスや緩和ケアパスが役に立っています。滋賀県内でも湖北地域でパスの運用も多いそうです。通院できず、いよいよ在宅療養となったときにもスムーズに移行できています。在宅の問題点として、かかりつけ医の判断で医療が決まってしまうことがありますが、緩和ケア研修会への参加により質の維持・向上を心がけるようにします。
⑤最後に生活習慣病の予防ですが、特定健診の受診率を上げるために、行政は一生懸命取り組んでおられます。当方でも支援ができるよう特定健診を請け負うとともに、治療中患者情報の提供を行っています。米原市では慢性腎臓病の予防に力を入れておられ、行政主導で専門医と開業医や保健師が勉強できる場を設けてもらっています。
 さらに、外来の診療だけでは糖尿病や慢性腎臓病の指導が満足にできないため、医療機関側から保健師・栄養士に保健指導・栄養指導に行ってもらえるようお願いしています。その結果をフィードバックしていただけますし、当方からは検査結果や服薬情報などを提供し、スムーズな連携を目指しています。
5)まとめですが、
①米原市の地域包括ケアを目指して取り組んでいたところ、現在は国を挙げて地域包括ケアとなっていました。
②市内の高齢者数が頭打ちとなってきています。これから急増する都市部とは違う問題が出ています。
③地域の延命を目指して取り組み、もしかすると地域の看取りをする可能性もあるかもしれません
④経営的には、介護保険のサービス単価が減少しており、厳しくなってきました。老健のロングの入所希望者もリピーターがほとんどとなり、家に帰る施設よりもずっと預かってもらえるサービスを希望する住民が増えてきているのでしょうか。地域のサイズが減ってきたのに合わせて事業も小さくするといいのか、都市部の高齢者を取り込むことも必要なのか
⑤医師も看護師も介護士も、募集をかけてもなかなか集まらず、確保に苦労していますが、多職種連携をキーワードに乗り越えたいと思います。
今後の地域包括ケアシステムの推進のために、どのように進めていくといいのか、皆様方からの様々なご指導をいただければ幸いです。
ご清聴ありがとうございました。