伊吹の水について聞いてみました

フランス料理ベルソー 松田シェフ&ソムリエ

 なんと難しいテーマを持ってこられた事でしょう。このテーマ、話せばとても長くなってしまいます。が、気がつくことから簡単にお話しますと、まずさかのぼって17年前、辻学園に就職して1年目の時に職員研修で、「水」についての講習会を聞きに行ったのですが、その時の講師が「河野友美(漢字間違ってるかも)」さんと言って、その頃水の研究では第一人者といわれていた人でした。講演の途中、「日本一まずい水は…」という話になった時、なんと「伊吹山のふもとの伊吹町の水」とズバリおっしゃったのでした(大阪の講演でですよ)。その頃は「水」が味覚面で研究され始めた初期の頃だったと思いますので、硬水イコールまずい水だという認識しかされてなかったと思います。

 それが、いいコンプレックスとなって、常にこの水についてどのように付き合っていこうかを考えさせられてきました。まず、大阪から帰ってきてベルソーを始める時、コーヒー紅茶、料理全般において軟水を使えば、世の中全般の「美味しさの価値観」の中に入ることができるという利点がありました。でも、その頃の私達には軟水機をつける余裕がなかったことや、大阪のコーヒー豆屋さんが、「ヨーロッパで飲んだコーヒーの味に似ている」とおっしゃったことがあって、まずいと言われたとしても、これが伊吹町のベルソーの味…と考え、堂々とここの水で仕事をしていく決心をしました。その時に、自然な水を使いたかったこともあって、春照の臼谷の二箇所の涌き水と、大清水の涌き水を、長浜保健所に持っていって調べてもらったことあります。

 そんな感じで、10年間伊吹の水と付き合ってきての現時点での私の考えですが、そろそろ「軟らかい感じのコーヒー、紅茶、お茶」が飲みたくなっています。飲み水にしても、軟らかいほうが体にもやさしそう気がしますし。

 これはイメージですが、液体に旨みや栄養を抽出させたくない場合の調理には硬水がむいてそうな気がするのですし(野菜の下処理 他)、逆に液体に抽出させたい場合の調理(だし汁、お茶 他)には軟水を使いたい気がします。
「うどんは軟水で、蕎麦は硬水で…」という言葉もあるそうです。ちなみにワインの味覚の構成におきましては、硬水的な硬さは、ワインに骨太感を与えます。フランスのシャブリは石灰質土壌で有名ですが、やはり骨太で辛口、ミネラル豊富なキレのあるワインに仕上がってきます。

 最近、草木染めをするのですが、全国の染色家が憧れている「イブキカリヤス」(カリヤスはどこにでもあるそうですが)は、すごく美しい色がでるそうですね。でも、京都からわざわざ伊吹に来て、もらって帰って染色しても、伊吹で染めているものよりも、派手な感じに染まるらしいですね。色の仕上がり方はそれぞれの方の好みになりますが、伊吹の水を使ってカリヤスを抽出すると、適当な「出にくさ」が生じて、それが出すぎない品の良い色に仕上がってくるのかもしれませんね。

これからも伊吹の水によって楽しませてもらえそうですね。