シニアレジデント U先生 診療所研修(診療支援)

2005.10.14〜12.28まで2ヶ月半にわたり、U先生が研修に来てくださいました。研修といっても4年目医師、十分に診療できる能力を持っているので、診療支援と言った方が適切です。初めてのシニアレジデント長期受け入れにより、私達診療所スタッフ自体が変わっていったことを実感しました。


閉じられた開業医さんの昔ながらの診療室で、ご満悦の様子


雪の中の往診は初めてだとか・・・それにしても半袖とは若い。


学生実習のプログラムをいろいろと考えてもらいました。彼から得たノウハウは今後に活かせます。


夜まで続いた往診。研修医であるからこそ学生のニーズが把握できるのでしょう。


床ずれに、洗浄→ラップという非常に簡単な処置(ラップ療法)を行いました。「医療用じゃないとダメ」という既成概念を打ち砕いてくれました。


保健・医療・福祉に携わるメンバーで、ケア会議をした後の忘年会。「いぶき」の良さは、ネットワーク、フットワーク、チームワーク。


大雪の出張所にて・・・


患者さんには、時間をかけて詳しく説明されていました。


最後の夜に・・・ありがとうございました


伊吹山と、ペンションと、診療所と、雪・・・

振り返って・・・ (hatabo → Dr.U)

 思い返せば8月中旬、「U先生が東京の研修に来る」との情報を得て、東京まで行きましたが会えずがっかりしたのが思い出です。9月の国保学会中にH先生から「U先生を10月から派遣したい」とのことを聞いて非常に喜びました。また奈良での指導医研修に来られるとのことで急遽出席することにして、初めて会うことができました。

 時期的に、健康診断結果の説明や検査にほとほと疲れていた時期でもあり、地域包括ケアセンターいぶきの準備段階としての大事な時期でもあり消耗していました。10月から12月はインフルエンザの予防接種もあり、ど真剣どうしようか困っていたので、助け船、ありがたかったです。

 U先生からは、たくさんのことを学ぶことができたと思います。一つには、患者さんとのコミュニケーションの取り方。「あなたはどうしたいと思いますか? どのようなことならできそうですか?」という問いかけは新鮮なアプローチでした。私もできるだけ親身になって話しを聞くスタイルを取っていたつもりですが、コミュニケーションスキルとしてきちんと学んでいないこと、忙しいことなどがあり、一方的なアドバイスに留まっていたように思いました。

 また二つ目に、常に自分への振り返り(フィードバックおばけ)をされていて、参考になりました。社団の研修センターの方針でもあると思いますが、お互いに評価し合い、フィードバックの繰り返しにより成長していくスパイラルに持っていけることがわかりました。この方法は、これからも学生さんを含め、地域包括ケアセンターの職員の中で継続して取り組みたいと思いました。私のHPや私が管理人をしている滋賀県地域医療MLに対して、これが振り返りなのですよと言われて、ああそうなのかと変に納得し、プラスのエネルギーとなりました。

 三つ目には、常に自分から取り組む姿勢に感動しました。最初の頃のめまいの患者さんに対しても自分で所見を取り直し、救急搬送する際にも乗り込んでくれて、日赤まで行ってくださいました。朝早くから起きて1時間以上の道のりを来てもらい、夜は遅くまで勉強されていました。患者さんへの生活指導箋の発行も、すばらしかったです。ご両親の教育がいいのでしょうね。最後には自宅の猫ちゃんの葬儀まできちんとすましておられ、また振り返っておられたのも印象に残りました。保健師さんとの連携もよく、「住民に分かりやすい、楽しい健康教室」というばかりでなく「保健師さんのニーズに沿うような教室」という配慮もされており、ここまでの心配りはなかなか他の人にはできないでしょう。

 四つ目に、自分で調べたことを実践されていく様は、見習わねばと思いました。例えば、褥瘡や創傷処置の件です。知識として知っていても実践を伴わない自分の治療法に、少しジレンマを感じていたところです。「やりましょう」の一言で、ラップ療法を実施していただき、しかも成果を上げていたので、今後の褥瘡処置に自信がつきました。今後は老健も運営していく上で、ラップ療法は経済的にも有効なやり方です。これまでは在宅医療の中でしていましたので、医療用じゃないとという概念を、見事に打ち砕いてくれました。小中学校の養護の先生にも、自信を持って湿潤環境での治療の良さを説明することができました。

 五つ目に、U先生の1日数人〜20人の(もっと増えるとよかったのですが、12月までと決まっていましたのでやむを得なかったと思います)患者さんのカルテレビューをしながら、私自身の診療スタイルにも変化が出てきました。抗生剤を含め処方する薬が減りました。全く薬を出さないのはいかがなものかと思った時もありましたが、たぶん経過を追っていくと結果は見えてくるものでしょう。  

彼へのアドバイス

 私も35歳くらいまでは、体には自信があり、自由に体が動いてくれましたが、40歳を過ぎるとそうもいかなくなります。「無理のない計画を」と、ローン会社のコマーシャルではありませんが、無理をしないように気をつけてください。

 何でも診察ができて、どんな病気に対しても対応できる能力を持たれています(急性疾患から慢性疾患まで。軽症から重症まで)。相手を思いやるあまり、時間を割いておられるので、今後患者さんが増えてきた時は、どこかで手を抜かないといけない場面もできてくると思います。看護師さんに「今日は疲れているので流します」とか声かけして要領よくやっていってください。

 奥さんとの時間を大切にしてください。少子化対策にもご協力下さい。


現役レジデントの声  (Dr.U)

 地域医療がしたいという初心に後押しされ、インターネットで「地域医療」を検索し、たどりついたのが揖斐郡北西部地域医療センターであり、それが地域医療振興協会との出会いでした。私の初期研修は地域医療センターのある久瀬村で始まりました。老健や診療所のスタッフや地域の方々と関わるなかで、久瀬の地域医療を体感し、「患者中心の医療」「振り返り」「フィードバック」などの聞き慣れなかった言葉の意味を考えながら2ヶ月を過しました。その後、病院での研修が始まりましたが、診療所で経験できたていたように思っていた「患者中心の医療」の難しさに気づき戸惑いました。ただ目の前の患者様となんとか向き合おうと右往左往しながら、自分にできることといえば「患者様と向き合う自分中心の医療」でしかないということに動揺しました。それでもそんな動揺を丁寧に扱って下さる研修センターのスタッフの先生方がいたことや、同じように研修するレジデントの仲間がいたことで研修が継続できたように思います。

 シニアレジデント2年目のいま、再び地域研修の機会をいただき、久瀬と伊吹の診療所で研修をしています。先日、末期の癌患者の方を往診しましたが、そこにはまるで風邪でもひいたかのように「死に病やなあ」と言いながら、自宅の布団の中で過しておられるお年寄りがおられるだけで、重病人はおられずほっとしたことがありました。この頃「専門はなにですか?」という質問に「地域医療です」と答える声に、自然と少し力が入っている自分に気づき、よれよれの白衣の襟を少し正しているところです。


研修目標  (Dr.U)


#1.これまでの研修を振り返り、自分が何をしてきたのか説明することができる。
 →シニアレジデントミーティングで発表。

#2.背景(家庭・生活の場として地域・仕事)を考慮し、患者様との関わり方を考えることができる。
 →健康問題の改善の一つの方法として、生活習慣についての行動変容を考えるとき、
    患者様ごとの個別の生活に配慮しながら、面接を行い、生活処方箋を渡した。
 →往診が個別の生活環境や、地域の状況を知る機会となった。
 →包括ケアセンターの説明会で、地域の方々のニーズ(感情的ではあるが)を知ることができた。
 →伊吹の言葉リストを作成した。

#3.研修終了時に自分ができるようになっていること、自分に足りないことを評価し、その後に研修目標を考えることができる。
 →個別の生活習慣、環境に配慮し生活処方箋を作成できたが、継続していくためには作成時間
    を短くすること、何を処方箋に盛り込むかを絞り込むこと、適切なフォーマット作りをすること
    が必要である。
 →行動変容、コミュニケーションスキルについても継続して学び、実践したい。
 →レントゲンの撮影方法を放射線科の技師さんに教えていただこうと考えている。
 →注腸検査についても継続して学びたい。
 →内視鏡検査、エコーについても引き続き技術を高めていきたい。
 →糖尿病の健康教室については今後も機会があればより高度な知識を提供するだけではなく、
    抵抗を引き出さないで個別の目標設定、地域としての取り組みに繋がるような、グループ
    ワークを考えて行きたい。
 →認知症の地域のケアについて考えていきたい。そのために、本などで学習するだけでなく、
    認知症ミーティングにも継続して参加したい。
 →振り返りを週に一度ぐらいまとめて行きたい。(自信がない)
 →1日1時間は一日を振り返りながら落ち着いて本を読む時間をつくりたい。
 →整形外科研修、皮膚科研修、眼科研修を受けたい。
 →ときどき伊吹のホームページを眺めて、H先生の振り返りを覗いてみたい。
 →S先生に紹介していただいた本を眺める。
 →1月はほぐれた笑顔で病棟、外来を歩きたい。

方 略


#1.研修をスタートした場所、環境に戻る。

#2.地域診療所のスタッフと話をする。

#3.患者様のニーズを知る。

#4.地域(風土・文化・言葉)を知る。

#5.患者様の家庭・生活の場としての地域で患者様と向き合う。

#6.患者様に生活処方箋を渡す。


研修医から指導医へのフィードバック  (Dr.U → hatabo)

よかったところ

#1.一日の初めと終わりに必ず、気持ちが上向きになるような声掛けをしてくださった。

#2.時間を見つけては話しかけて、常に私の気持ちを伝える機会を下さり、自分の意見、気持ちを聞いていただいた。

#3.常に研修が心地よくできるように配慮していただいていると感じた。

#4.気軽に話しかけられる雰囲気で安心できた。

#5.カルテレビューにほぼ毎日付き合ってくださった。その際、診察のとき戸惑ったことを聞いていただくことができた。レビューをすることで、自分の知識、技能など足りないところを再確認できた。

#6.患者さんに優しく接しておられ、診察を見学していて、心地よかった。

#7.私が担当する診察患者さんが少ないときでも、手技・検査・処置などの機会を与えてくださった。できることが思いつかずにそわそわしているときには、自分の役割を与えていただけたように感じほっとしたし、よい経験になった。

#8.ホームページの更新やメーリングリストへの送信をほぼ毎日しておられた。そうすることで「日々の振り返り」を継続しておられるように感じた。

#9.診療所スタッフの意見に対し柔軟に、迅速に対応しておられた。(ホームページ上の学生実習の取り扱い方についてなど)

#10.診療所外のミーティングなどについても参加させていただけ、いろいろな場を経験できた。

#11.いつも食事を用意していただき、遠慮なくたくさん食べさせていただいた。おいしかったです。ありがとうございました。

#12.私の意見や気づきを大切にしてくださった。健康教室や診療所の勉強会などを支援してくださり、ポジティブなフィードバック下さった。元気がでました。

印象に残ったところ

#1.往診・・・ケアマネさんなどに電話で連絡をとり、その場でどんどん問題を解決されていたところ。

#2.吉槻の地域の方との包括ケアについての話し合い・・・地域の方の思いを聞くことができた。

#3.大雪・・・通勤がたいへんなときもありました。

#4.デジカメ・・・どこへ行くにも忘れず、美しい景色に反応して撮影していた。

#5.ターミナルの患者さん・・・ご家族に支えられながら静かに死を待つ姿。

#6.ハウルの城・・・ハウルの城、ハウルの通路が伊吹山と同じくらい伊吹の景色として印象に残っている。


伊吹の言葉 (Dr.U作成)

「いぶき」という名字は7種類・・・伊富貴、井吹、膽吹、伊夫伎、伊夫気、伊夫貴、伊富喜

「うい」「ういわー」・・・申し訳ない

「おせんどさん」・・・お疲れ様

「しりこぷたーにやまいがはいった」・・・お尻が痛い

「ぼんのくぼ」「ぼんのくそ」・・・後頸部

「ぼんのくそがわるい」・・・後頸部痛

「こしにせんがはいった」・・・腰が痛い

「しりきびす」・・・かかと

「だいだい」・・・だっこ      「ぼいぼい」・・・おんぶ

「いとう」・・・大切にする  「いとうてくれはってなぁ」

「こんす」「きゃんす」・・・「来る」の少し丁寧な言葉

「きやはる」・・・「来る」の更に丁寧な言葉

「やんす」・・・「いる」の少し丁寧な言葉

「いやはる」・・・「いる」の更に丁寧な言葉

「さんす」・・・「する」の少し丁寧な言葉

「しやはる」・・・「する」の更に丁寧な言葉

使ってみたい言葉
「じわーっ」・・・じわーっと欲しくなる

「ちょん」・・・(注射は)ちょんって終わる? ちょんって終わるからね。


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